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Photo by Kondo Atsushi
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「辞めるかどうかを決めるのは人ではなく自分。その思いがあったから、やって来られた」
岩澤 資之 #2
今回のアチーバーは、すし職人の岩澤 資之(もとゆき)さんです。岩澤さんは、大学卒業後にIT系企業でシステムエンジニアとして勤務していましたが、学生時代にアルバイトをしていたすし店の楽しさが忘れられず、25歳の時に一念発起。会社を辞め、すし職人の世界に飛び込みました。六本木の「蔵六鮨」、赤坂の「すし匠 齋藤」で15年間修業を積み、2016年3月に独立。「不動前 すし岩澤」を開業すると、3年目の2019年にミシュラン1つ星を獲得するなど、多くの食通をうならせる人気店へと成長させました。夢をあきらめない強い覚悟、修行を通して学んだ人を育てるポイントとは―。今回は全3回連載の2回目です。
Q:業種を問わずですが、転職に悩んでいたり、一歩を踏み出せないでいる人は少なくありません。岩澤さんは25歳の時にIT企業を辞め、40歳で独立という2度の大きな決断をされています。最初に、SE(システムエンジニア)を辞めると決めた時の話を聞かせていただきたいのですが、具体的にはどのような仕事をされていたのですか?
富士通さんから仕事をもらうことが多かったのでで、空港で入れる保険システムのタッチパネルの画面を作ったりしていました。あとは2000年問題というのがあって、ちょうど1999年にSEをやっていたので、その12月31日にコンピューターが止まるけど保険会社さんがそのデータを参照できるようなシステムだったり、ベンチャーな感じの会社だったので、本当にいろんなことをやっていました。Q:学生時代のアルバイト先の大将に憧れて転職を決めたとのことでしたが、「寿司」以外の選択肢はなかったのですか?
なかったですね。他のジャンルに行こうとも思わなかったですし、寿司は僕のイメージですけど、イタリアンやフレンチみたいな絶対的な味覚やセンスがなくても、基本に忠実にやればある程度形になると自分なりに感じていて、それで寿司屋が向いていると思ったんです。それに、日本人で寿司を嫌いな人ってあまりいないじゃないですか。それがやっぱり大きかったですかね。Q:それまでのキャリアや常識が一切通用しない世界に飛び込んだわけですが、社会人経験があることは、岩澤さんにとってどのような影響がありましたか?
自分の場合「お前は頭でっかちなんだよ」と言われたり、理論が先走ってしまうので「まずは動け」という注意をよく受けていました。例えば、ある先輩はこういう風に教えるけど、別の先輩は教え方が違ったりするわけです。そこで、「あの先輩からはこう聞いたんですけど」って言ったら、「じゃあ全部そいつに習えよ」と返されてしまい、悩んだりもしました。そのうちに、二枚舌じゃないですが、「この人の前ではこういう感じ」というのがだんだん身についていくんですね。ただ、 当時理不尽だなと思ったことも、実際自分が店をやってみると、お客さんによって要求や好むものが違うので、実は結構活かせるんです。このお客さんにはこういう対応、このお客さんにはこういう対応っていうような結局修行でやってきたことがそのまま活かせることに後になって気づくんです。結局理不尽と思えたことが理不尽じゃなかったというか、自分の糧になっているんですよね。Q:一見遠回りに思えることでも、考え方次第でプラスに変えていけるということですね。
そう思います。自分は、人生で無駄なことは何もないと思っています。ネットとかに元システムエンジニアの職人みたいな記事があるから、SEの方がどんなやつがやっているんだって食べに来てくださったりもしますし、大学で勉強していた中国語も、今海外のお客さんが来てくださるのですごく役に立っていますから。Q:独立を決めた時のことも聞かせていただきたいのですが、修行を15年経験されて、自信を持っての決断だったのですか?
そうですね。自分の指名が入ってお客さんが喜んでもらえるのと、仕込みや味の再現はできるようになっていましたし、接客も仕入れも含めて、そろそろ自分でもできるんじゃないかと判断しました。あとは経験のある親方に客観的に見て、独立しても大丈夫かというお伺いを立てて、「もう大丈夫だ」という言葉を頂いたので、自分が抜けてもその店がちゃんと回るかどうか、後輩をちゃんと育てられているかを親方に確認して、独立を決心したという流れですね。Q:自分が抜けた後のお店のことも考えるのですね。
そうですね。それはすし匠の親方の教えでもあって、 自分だけじゃなくて周りのことも考えるってことですね。(お店の)2番手とかをやっていると、お客さんに「スポンサーになるから独立したら」みたいな感じで声をかけられて、始めちゃう人もいるんですけど、私がいたすし匠はそれを許さないというか、辞めた後もちゃんと関係が保てるように、ちゃんと後釜を育ててからっていうのが約束事なんです。自分がもしその立場でやられたら嫌なことはしないというのが、すし匠の考え方でもあるので、そこはしっかり聞いて行動しましたね。Q:安定を捨てることに不安はなかったですか?
それはなかったです。自信もあったので、やるしかないというか、早く独立したかったですね。Q:独立した後と修業時代の一番の大きな違いはなんでしょうか?
決断を全て自分でしなければいけないということですね。前までは、親方に「こういう状況ですけど、こうしますか?」って選択肢を提示して、親方が最終的に判断を下していたんですけど、今は全部自分で判断しなければいけない。従業員との関係もその1つで、以前お店にいた子から「自分も2番手としてやってるんだから、(私と)同じぐらいお金がほしい」と言われたことがあるんです。もちろん「その要求は少しおかしい」という説明はしたんですが、結局、仕事の評価の中にある自己評価というのは微々たるもので、親方になったらお客さんの評価でしかないんですよね。お客さんが来てくれてるかどうかが自分の絶対的な評価で、それ以上もそれ以下もない。従業員の評価っていうのはお客様の評価と、上からの評価、下からの評価なので、自分の評価なんて全然参考にならないわけです。そういう部分も今まで雇われているときは考えなかったですけど、経営者になるとそういう点を見て、正当に評価しないといけないなと感じますね。Q:独立前後で、お寿司に対する向き合い方に変化はありましたか?
そこは変わらないですね。お客さんに「美味しかったよ」「楽しかったよ」って言ってもらうのが、一番のやりがいというか、人を喜ばせて自分が喜んでいるのが寿司屋だと思うので、それが頑張ってきた甲斐があったなと感じる時ですけどね。Q:このTHE WORDWAYは言葉を大切にしています。岩澤さんが大切にしている言葉、今の岩澤さんの土台になっているような言葉があれば教えていただきたいのですが。
ある漫画の言葉なんですが、「努力が報われるとは限らないけど、成功した人はすべからく努力をしている」という言葉ですね。もう1つは、スラムダンクの「諦めたらそこで試合終了ですよ」という言葉です。諦めなければ夢は続くというか、だからその今、職人修行をしている人には本当に諦めないでほしいですね。諦めなければ絶対に独立できるので、そこは今自分の中でも後輩に伝えたい部分ですね。Q:岩澤さんも一度はクビを宣告された時期もありました。ただ、そこで諦めなかったことが、今につながっているということですね。
そう思います。辞めるのを決めるのは店の親方じゃなくて、自分だと思ってましたから。辞める判断は自分でする。ずっとそう思ってきたから、諦めずにやってこられたのかなと思いますね。岩澤さんの「THE WORDWAY」。次回♯3は、岩澤さんが「指導」「教育」について語ります。厳しいお店での7年間、自主性を育んだお店での8年間の修行を通して感じた、人を成長させるための教え方とは。壁を乗り越える「言葉」を見つけてください。
THE WORDWAYでは、読者から、アチーバーの記事を読んだ感想を募集しています。記事を読んだ感想、「昨日の自分を超える」トリガーになったこと、アチーバーの方々に届けたい思いなど、お送りください。いただいたメッセージは、編集部から、アチーバーご本人に届けさせていただきます! アチーバーに声を届けるPROFILE
- ◆岩澤 資之(いわさわ・もとゆき)1975年、神奈川県生まれ。立教大学卒業後にIT系企業に就職し、システムエンジニアとして1年半勤務。25才のとき、学生時代にアルバイトしていたすし店の楽しさが忘れられず、会社を辞めてすし職人の道へ進むことを決意。六本木「蔵六鮨」、赤坂見附「すし匠 齋藤」で15年間修業を積み、2016年3月に不動前駅徒歩6分の場所に「不動前 すし 岩澤」を構え、独立する。食好きが足しげく通い、2019年にはミシュラン一つ星を獲得した。
HOW TO
THE WORDWAYは、アチーバーの声を、文字と音声で届ける新しいスタイルのマガジンです。インタビュー記事の中にある「(スピーカーマーク)」をクリック/タップすることで、アチーバーが自身の声で紡いだ言葉を聞くことができます。 CATEGORY
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