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Photo by Kondo Atsushi
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「自分自身の目標と、チームの目標。2つを持つことでぶれずに進んでいける」
五郎丸 歩 #1
今回のアチーバーは、ラグビー元日本代表で2021年に現役を引退した五郎丸歩さんです。五郎丸さんはスケールの大きなプレーで高校時代から注目され、早大時代には3度の大学選手権優勝に貢献。日本代表としても長くプレーし、2015年のW杯では歴史的勝利を挙げた南アフリカ戦でトライを決めるなど、チームの躍進を支えました。その後は海外リーグにも挑戦し、オーストラリア、フランスの強豪チームでもプレー。2021年シーズンを最後にピッチに別れを告げました。引退後は、所属していた静岡ブルーレヴズ(旧ヤマハ発動機ジュビロ)の「クラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)」に就任し、チケット販売の企画や、ファン・スポンサーとの連携など新たなフィールドで挑戦を続けています。日本のラグビーをけん引し、世界の扉を開いてきた五郎丸さんが壁を乗り越えるために大切にしてきたこととは。今回は3回連載の1回目です。
Q:引退から1年がたちました。まずは、五郎丸さんの歩んでこられたキャリアについて伺っていきたいのですが、ラグビーを始めたのは3歳、お兄さんの影響だったと聞きました。
そうですね。3歳から始めましたけど、小学4年生でラグビーからサッカーに切り替えたんです。Jリーグ開幕がすごく自分の中で大きかったですし、世の中的にもJリーグがフォーカスされた時期でした。兄が2人いるんですけど、兄2人はラグビー1本なので、サッカーに切り替えていた小学校4、5、6年の間は兄からの厳しい目を感じていましたね(笑い)。ただ、その3年間は自分の中で大きかったなと思っていて。サッカーはスペースがどこにあるかとか、上から俯瞰して見るようにプレーするんです。ラグビーは、ぶつかり合いやボールの争奪だったり、どちらかというと平面のスポーツなので。サッカーをやることによって、キックもすごく上達しましたし、キックを蹴ることによって、空間認識も身に付いたと思います。なので、サッカーをしなかったら代表にもなっていないし、こんなにラグビーを続けていないだろうなっていうぐらい、貴重な3年間を経験させてもらいましたね。Q:佐賀工高校時代から注目され、早大ではスター選手として1年生からレギュレーとして活躍されました。学生時代の忘れられない経験や、後の考え方に影響を与えた試合などはありますか?
高校2年のときに、兄と全国大会に出たんですが、そこで自分が大失敗をしてチームが負けたんです。その時間は返ってこないですし、巻き戻すこともできない。何かをしたから許されるっていう話でもないじゃないですか。兄だけじゃなくて、兄の同級生や、その両親がいたり、いろんな人たちからの期待感がある中で、自分の失敗でチームが負けてしまったんです。自分をずっと支え続けてくれて、自分の進路をずっと切り開いてくれたしてくれた兄に、最終的に泥を塗って卒業させてしまったと。その申し訳ないという思いと、兄以外の方々にも本当に申し訳ないという思いは、未だに残っていますね。Q:その1つの失敗、敗戦が選手としての考え方を変えたと?
その申し訳なさがあったので、「大学でとにかく活躍しなくちゃいけない」という思いがすごく強かったです。大学1年から試合に出させていただきましたし、(早大時代に)日本一になって嬉しかったのは嬉しかったですけど、どこか喜べない自分がいるというか。あのときの、申し訳なさをずっと引きずってるから、申し訳ないっていう気持ちが心のどこかにありましたね。それもあって、僕は自分がどうなりたいかっていうのは、あんまりないんですよ。それより、このチームを強くしたいとか、誰かに恩返ししたいとか、そっちの思いの方が強いですね。Q:自分がこんな選手になりたいとか、こんなチームでプレーしたいという未来は考えないと?
そうですね。自分のビジョンっていうのはあまりないですし、先のことを考えてもどうせ分からないと思ってるので。簡単に言うと、コロナなんて誰も想像してなかったわけですよ。みなさん色々長期的なビジョンって持たれているじゃないですか。でも、それって全部どんでん返し食らうときが絶対来るわけじゃないですか。そう考えると、左右されないものって、もうこの今の瞬間しかないみたいな考えだから、どれだけ素晴らしいビジョンを持っていても、「今この状況を打破できない奴は絶対出来ない」っていうのが、自分の中にあるんですよね。だから、あんまり長期的なビジョンもないし、自分自身がこうなりたいとか、キャリア形成とか一切ないですね。Q:どのような経験から、「今」を大事にするという考えに行き着いたのですか?
これだけ言っておいて、その理由っていうのはすごく些細なことだったんです。外国人選手がチームにいるんですよね。ある日の練習が体力測定でめちゃくちゃきつい日だったんですよ。それが月曜日の午後だったんですけど、そしたら、前日の日曜日の昼ぐらいから嫌な気持ちになってくるんです。「あぁ嫌だな、嫌だな」って、月曜日の朝なんて最悪ですよ。でも、朝練はあるんですよ。朝練に、その日曜日の午後から引きずった気持ちで行くと、ドアを開けたら、その外国人選手達はキャッキャ言ってウエイト場で走り回って遊んでいたんです。その時に「なんじゃ、この差は」と思って。その時は「こいつら変わってるな」って感じだったんですけど、そしたら、その日の午後の体力測定が豪雨でなくなったんですよね。その時に、「俺は何をこの時間過ごしてきてたんだろうな」と。めちゃめちゃもったいないなって。キャッキャ言って騒いでる人間もいれば、日曜日の昼からずっとテンション低い人間もいて、同じ時間を過ごしてるのに、めちゃくちゃもったいないことをしたなと思って。そのキャッキャで気づかされましたね。Q:考え方一つで同じ時間でも過ごし方が変わってくるということですね。
その時に、先ばっかり見ていてもしょうがないなと思ったんです。先は分からないし、それだったら今置かれた環境で楽しんだり、何か改善するとか、そっちに考えを振った方が自分をコントロールできる部分が大きいなと思って。コロナなんて、誰も想像してなかったし、もはやコントロールできないじゃないですか。Q:その経験が見えるはずのない自分自身の未来を考えるより、「今」のチームを大切にするという考えに繋がっていったのですか?
そうですね。ただ、主軸はチームにあるって感じです。でも自分が戦っていく上で、組織やチームに依存し続けるのも危ないなと思っていて。例えば、チームのためにすごく自分が頑張りました。でも、チームの結果が出なかったり、チームみんなやる気ないですみたいな状況って多々あるじゃないですか。そうすると、100%チームだけでやっていたら、自分のモチベーションはガクッと落ちるわけですよ。これも、結構危ないなと思っていて。だからこそ、自分自身が持つ目標と、チームが持つ目標、その2つを持っておかないと、行ったり来たりできないなっていう。そうしないと自分の心を穏やかに保てないなっていうのは、20代後半ぐらいに気づきましたね。Q:「自分の目標」と「組織の目標」を持ちながら、状況によってうまく使い分けると?
そう、2つですね。チームの目標があって、その中で自分が何しなくちゃいけないかっていう目標と、自分自身の例えば今シーズンの目標みたいなもの。そういう方が、僕は、心穏やかにできたというか。チームの調子が悪いときも、「自分の今シーズンの目標はこうだし、とりあえずじゃあ一旦個人の目標に振ってみよう」とか。逃げ道って言うとネガティブですけど、そういう手法の方が、自分自身はぶれなかったですね。 そうですね。僕も「苦労してるんでしょう」とか言われたりするんですが、全く感じていないと言ったら変ですけど、苦労することが楽しかったりしてるんですよ。だから、苦労ってあんまり考えてなくて。これは簡単に言えば、物事の捉え方だと思うんです。僕みたいに日曜日の昼から悩んでる人もいれば、キャッキャ言って騒いでる人もいる。そういう感覚ですよね。物事、これをやらなくちゃいけないとか、あれをやらなくちゃいけないとか、もちろんあるんだけど、できないこともあるし、そのできないことに対して、どう自分で捉えるかだと思うんです。「嫌だな」と思うのか、「チャンスだな」と捉えるのか。でも、言えるのは「同じ時間ですよ」と。その時間内で、どういう風に自分が物事を感じて、前に進んでいくかっていうのは、自分に選択肢がありますから。だから、全然苦労って思ってないですね。Q:ビジネスの世界でも目標に向かってうまく進む時ばかりではありません。五郎丸さんは、苦しい局面に陥ったり、成長に鈍化を感じた時、どのようにその「壁」を乗り越えてきたのですか?
Q:その考え方っていうのは、ラグビーを通じて得られたものですか?
現役時代にラグビーを通じて、学ばせてもらいましたね。僕の最終的な極論は、人間は全部プラスマイナスゼロで出来てると思ってて。良いこともあれば、同じだけ悪いこともあると。それが人生の中で、上に行ったり下に行ったり波はあるけど、最終的に自分の命が尽きる時にトータルしたら、「ゼロです。何もないですよ」っていうのが、自分の中の持論なんですよ。なので、嬉しい時はもちろん嬉しいけど、下がった時も「また上がるし、いっか」みたいな考えなんですよ。だから、あんまり気持ちの起伏はないですね。「おっしゃー」もないし、「めっちゃ悲しい」とか「めっちゃきつい」とかもないんです。ずっと「おー」って感じですね。Q:五郎丸さんの「THE WORDWAY」。次回♯2は、五郎丸さんが現役を引退して次のフィールドに選んだ現在を語ります。「批判するより、評価される人間でいたい」。その言葉の本質とはー。限られた時間の中でどう生きるのか。ぶれない姿勢、ぶれない「言葉」があります。
THE WORDWAYでは、読者から、アチーバーの記事を読んだ感想を募集しています。記事を読んだ感想、「昨日の自分を超える」トリガーになったこと、アチーバーの方々に届けたい思いなど、お送りください。いただいたメッセージは、編集部から、アチーバーご本人に届けさせていただきます! アチーバーに声を届けるPROFILE
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五郎丸 歩 (ごろうまる あゆむ)
静岡ブルーレヴズ クラブ・リレーションズ・オフィサー
1986年3月1日生まれ。福岡県福岡市出身
元ヤマハ発動機ジュビロのプロラグビープレーヤー、2021年度シーズンで現役を引退。
佐賀工業、早稲田大学を経て、2008年にヤマハ発動機ジュビロに入団、
ジャパンラグビートップリーグ13シーズンにおいて、得点王3回、ベストキッカー3回、ベスト15を5回受賞、ラグビートップリーグ通算最多得点(1282点)記録保持者。
2015年 第52回日本選手権大会においては、創部初の優勝に貢献した。
2005年、学生時代に日本代表に初選出、ラグビーワールドカップ2015イングランド大会に出場し、強豪南アフリカから歴史的勝利をあげると共に、大会ベスト15にも選出された。
日本代表キャップは57。
HOW TO
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五郎丸 歩 (ごろうまる あゆむ)
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