Photo by Kondo Atsushi

「相手を喜ばせるために、その人の心を読む。心を読むために、一期一会を大切にする」

北見宗幸 #1

今回のアチーバーは、一般社団法人茶道文化振興会理事長で裏千家茶道教授の北見宗幸さんです。豊臣秀吉から、「茶聖」千利休が相談役として重用されたように、現代においても経営者や組織のリーダーたちがこぞってヒントを求める「茶」の世界。茶道文化発展のために幅広い活動をされている北見さんが考える、ビジネスに通じる茶道の教えとは何なのか―。鎌倉時代から脈々と受け継がれてきた伝統に宿る「WORD」から、人生を豊かにするヒントを見つけてください。今回は全2回連載の1回目です。

Q:今回はよろしくお願いします。「茶道」については、多くの人が漠然としたイメージは持っているものの、実際に触れた経験がなく、どこか難しそうという印象を持っているのでないかと思います。すごく大雑把な質問になるのですが、そもそも茶道とはどういったものなのでしょうか?

茶の道ですよね。まず道がつくというのは、柔道、剣道、武道、分かりやすく言うと、お寺さんで修行してるような思い、そこからのスタートですよね。壁に墨蹟でお坊さんが書いた「軸」をかけ、そこに一礼をして始めるといったような、まず道があるって事ですね。新しい人たちはそれを自分の道のように考えてしまうんですけど、元々は本来の道があって、そこに私たちが歩いている。それがたまたまお茶であったということです。お茶の世界で言えば、いろいろな飲み方、お辞儀の仕方、そういうところから最初はスタートし、最終的にはお点前して、お茶をたてられるようになるところが目標ではあります。ただ、もっと深い目標がその道の中にはあるということです。

Q:作法を習得するだけが目的ではないということですね。

昔は、家に人を招き入れるというのは、その家が「うちは穢れてませんよ」っていうのを表す意味だったんですよ。客側も「汚れてません」と言って、その家に入るんです。そして、酒を飲む。それは、この家の水は汚れてないぞってことなんです。そこから、喫茶法が入ってきて、1200年ぐらいからお茶を出すようになったと。つまり、日本人がお茶を出すというのは、「自分の家が汚れてないですよ」っていう意味で、アメリカとかのティータイムとは少し意味合いが違うんです。反対に、誰かが亡くなった時というのはとても悲しくて、それは気が枯れてる時でしょう?だから「汚れ(気枯れ)」っていうんですよ。

Q:北見さんのもとには、多くの企業のトップが茶道を学びに来ていると聞きました。彼らは何を吸収しようと考え、また北見さんはそういった方達に茶道の何を伝えようとしているのですか?

お茶をやっているイメージっていうのは、利休と秀吉なんですよ。秀吉は天下を取っていて、利休は天下を取らせているんですよね。お茶の先生というと偉いというイメージですけど、そうじゃなくて、天下を取る人たちをサポートしているのが茶人であり茶道なんです。そういった人たちが茶室で、どうして心を強くするのかというと、一昔前のゲームなんかで将軍を強くするようなゲームってあったでしょう?ああいうところでは、精神力を上げるためっていう風に言っていたんですけど、そうではなく、人の心を読むためなんです。人がどういう思いをしているかを考えるためだったんですよね。ほんの少しの所作でも相手の心が見えてくるし、例えば足が痺れてる人、少し動いたり、汗をふっと拭こうとしたり、それだけの所作で「あれ?暑いのかな?足痺れてるかな?」というのが分かるんです。手を擦る音で、「あ、寒い人がいるのかな」とか、「乾燥してて洗い物とか結構してる人なのかな」とか、そういうのも読めてくる。そうやって心の中を読むことができたのが天下一の人たちで、それをサポートしたのが茶人だったと。

Q:心を読むことは、どの時代であっても武器になると?

天下を取る人たち、国を取る人たちは、時代とともにいなくなるじゃないですか。明治になったら国を取るなんてことできないわけですよね、そうすると、茶道は国のトップから企業のトップに広がっていっているのです。会社のトップの人たち、社長、代表と呼ばれる人たちがお茶をやってるのです。明治から大正、昭和にかけて、沢山の企業の経営陣の方々が茶道を嗜んでいます。それによって、人の、具体的には自分の会社の社員が今どんな気持ちでいるのかを読むことができたから、いろんなアドバイスができたんだと思うのです。

Q:茶道を学ぶことで、具体的にどうして相手の心が読みやすくなるのですか?

それは相手に美味しいお茶を出したいからです。目的は相手を喜ばすことですから。普通のホームパーティーと一緒ですが、茶道にはそこにルールがある。そのルールの中で動けるっていうことは、余計心が読みやすいんですよ。茶室でやると言えば、畳じゃないですか。だから来る人は「正座だな」と思う。そうすると正座に対して、どういう思いで皆さんが来るかなと考えるじゃないですか。そこで椅子が出ていたらどうですか。大喜びでしょう?…ということを考えるわけです。さっき言ったホームパーティーは、ルールがないですから気楽な格好で行くと思うんですよね。だけど、ここではルールがある。もしかしたらゴルフも同じかもしれませんね。接待にゴルフが使われるのも、心が読めるし、ああいうところに行くことで心が通じ合うことができたからかもしれません。お茶の場合だと、特に命がけの時代もありますので。戦国時代、秀吉と徳川家康のお茶もあったわけですから。そういう場所だからこそ、余計心を探りあうんですよ。いい茶器を出されたら「いいものを持ってるな、儲かってるんだなあ」と思うし、逆にそういう風に思わせてるかもしれない。そういうことが読み取れるのがお茶の面白さなんです。

Q:相手が欲しているところを先回りする能力があれば、いかなる場も優位に進められると?

面白い話があって、パナソニックの松下幸之助がお茶を始めるきっかけというのを書き残してるんです。初めて茶会に行ったら、正客、メインゲストですね、一番上座に座らされて、すごく恥をかいたと。だから、これはお茶をやらなければと思って始めたっていうのが書いてあるんです。それを読んだ人は「そうか、松下幸之助ですらそうなったんだから、やっぱりお茶やらないとな」と思うんですよね。だけど、そういう風に思うのは一般的な人で、もっと心を深く読むと、松下幸之助ほどの人が茶席に呼ばれて勉強していかないはずがないんですよ。必ず予習しているはずなんです。正客に入らされるということもイメージしてね。ただ、「何も知らないので、よろしくお願いします」って言うと、その場の空間はすごく和みますよね。結局そうやって場を和ませるのがうまかった人が天下を取っているんだと思うんですよね。

Q:そういう能力の成長につながるから、ビジネスの世界の人が茶道を求めるのですね。

相手の心、どう思っているかという意識ですよね。相手と会って交渉するにしても同じです。「ビジネス」と「商売」の違いというのがあって、ビジネスは1回きりで次はもう会わない、って響きがあるように感じますが、商売は「商い(あきない)」。飽きさせないことで次もまた来てもらうというところがありますよね。「一期一会」ってお茶の中で聞いたことがあると思いますが、この時しかないから、最高のおもてなしをするんだっていうのが一期一会なんですけど、私は、そうではなくて、もう1回会いたいと思ってもらうために最高のおもてなしをするっていう、一期一会があってもいいと思うのです。

Q:北見先生は伝統を守ることで、世の変化も美感に感じてこられたと思うのですが、時代とともに人と人の接し方、一期一会にも変化を感じることはありますか?

次の世代、今の10代の人達って、一期一会に気づかないんですよ。授業でも頭の中に入らない子が多いんですが、その原因の一つは携帯電話、スマートフォンだと思うのです。何でも検索できるから、後から調べられると思ってしまいます。人の話を頭の中に入れようとしない。テレビを通して見ることよりも、YouTubeで見るでしょう。すると、自分の見たいところに飛べて、戻せるから、全部自分中心に動けるのです。そうすると、この一瞬で話している時の、この一期一会のこの空間から逃げることができるのです。そして、大事なことに気づかないで終わってしまう。それが次の世代かなと思うのですよ。

Q:その瞬間、瞬間で考える癖がなくなったということですか?

人間はそういう風にして弱くなっていると思います。人との会話で次の面白い話が聞けなかったり、いい話が聞けなくても「まあいいや」って思ってしまう。すると、(その人たちが自分にとって)「マイナスではない」と思うから、プラスにならないのです。そういう人は、全然大きくならないですよね。相手の心を読むために、どう心を読まれないようにするかと、やっぱりそれは人との出会いで、いろんな人と会うことによって、心を読めるようになるわけだから。ビジネスで言えば、そこに日本人は季節感とかを生かしていくわけです。「稽古」っていうのは、古きを考えるって読むんです。そして、今を照らすっていう意味合いがある。そういった考え方が大切だと思いますね。

Q:相手を見る力を養うために、日々の生活の中でできることはありますか?

  意識することです。相手のことを意識すること。相手の心を読もうとするわけですよね。お客さんが来るなら、その時にお客さんがどこに座るかを考えて、自分がどこに座るかを考える。居心地を良くするってことですよね。もし家に誰か好きな人や恋人が初めて来るとしたら家の中をきれいにするでしょう?だからもし商談の人が来るとして、いきなりグラスがキンキンに冷えた麦茶が出たら嬉しいですよね。だったら、そういうのを出してあげようと思うことです。だからこそ、自分が「客」にならないとダメなんです。客の心がわからないとダメなんですよ。お店に入る時に、スマホ見ながら入ってたらダメなんです。どこまでお店が綺麗になっているかとか、そういうところを見ることですよ。そうすると自分が直せますから。だから、いろんな人と会う、いろんな心を見る。それが、相手の心を読むことにつながると思いますね。
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PROFILE

北見宗幸(きたみ・そうこう)1972年東京都生まれ。一般社団法人茶道文化振興会理事長。東京・高田馬場にある「茶道会館」講師。裏千家茶道教授。講演などを通して茶道の文化を伝えつつ、テレビやCMなどでも活躍。雑誌「和楽」(小学館)などの連載でも人気を集めている。佐渡・鈍翁茶会の監修もしている。

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