Photo by Kondo Atsushi

「執着せずに生きること。「壁」ではなく「山」だと考えれば、登るのも難しくない」

北見宗幸 #2

今回のアチーバーは、一般社団法人茶道文化振興会理事長で裏千家茶道教授の北見宗幸さんです。豊臣秀吉から、「茶聖」千利休が相談役として重用されたように、現代においても経営者や組織のリーダーたちがこぞってヒントを求める「茶」の世界。茶道文化発展のために幅広い活動をされている北見さんが考える、ビジネスに通じる茶道の教えとは何なのか―。鎌倉時代から脈々と受け継がれてきた伝統に宿る「WORD」から、人生を豊かにするヒントを見つけてください。今回は全2回連載の2回目です。

Q:今回は伝統を守ることと新たな挑戦をすることについて、北見さんの考えを聞かせていただければと思います。北見さんの歩みを知る上でも、まずは、ご自身が理事、お父様が館長を務めているこの茶道会館(※このインタビューを行った場所)について教えて頂けますか?

私の曾祖父が、元々仏師・建築家で、で、この茶道会館はもともと神社として建てて、祖父が宮司をやっていたんです。ところが戦争で焼けてしまって、焼け野原になった。それで曽祖父が「まずは心の復旧だ」と。戦争で焼け野原になって、その心をいかに復旧するかっていうことで茶の道場を建てたのです。そして私が四代目で今、理事長をしている。目的は、日本文化の普及や、お茶文化を次に伝えていくということですね。

Q:生まれながらに、お茶が目の前にあり、将来的にそれを教える立場になることを意識されていたと思うのですが、文化を伝えるという仕事をどのように捉えているのですか?

もう生活の一部で、仕事やビジネスではないですし、自分の運命って言うと言い過ぎですけど、お茶を教えるのが生活であり、この環境、この家を守るのが生活ですよね。京都の家元のところで4年間修行をしたのですが、その頃から先生になることを意識して、お茶のお点前をどうするかとかいうことよりも、「どうやって教えるか」を考えたり、やっぱり心の意識の方が強かったですかね。気配りの上手い人っているじゃないですか。心配りですよね。そういう人たちを見て、「上手いなあ」と思ったり。襖を開ける音で変わりますし、歩き方、所作でも変わりますから。そういったところは、意識していましたね。「(お茶の)順番とかはあとで覚えられるしね」なんていう思いもあったんですが、所作は実際に見ないと覚えられないですよね。

Q:形式だけでなく、茶道の本質や伝統を伝えていくことが大事だということですか?

そうですね。やっぱり伝統なので、それを伝えるっていうのは大事ですので。時代の変わり目、非常に今は変わり目なので、もっと面白く、ただ面白すぎてはだめですし、そこはすごく意識してますね。伝統と伝承の違いという話があるんですけど、伝承っていうのはそのまま、全くそのままを残しておくのが伝承。伝統は、その時代時代で何かちょっとずつ変えてくる。ただあるものを一筋は変えずに、ちょっと変えていく。変えざるを得ない時に変えるようなことなんです。だから、くだけすぎちゃダメなんですよ。ポットでもお茶はたてれるんですよ。でも、それが当たり前になってしまうと、やっぱダメですよね。「筋」が変わっていってしまいますから。茶碗の代わりに気軽な器、茶杓の代わりにスプーン、電気ポットでもできるんですけど、ずっとそれをやっていたらダメですよね。やっぱり、砕けすぎたものはお茶ではないですし、ここ(茶室)にあるものが、自分の中のお茶ですよね。

Q:文化を引き継いでいくという重責を担われているわけですが、重圧や難しさは感じますか?

それが執着ですよね。執着してはいけないのです。「こんな大きいもの」って、他の事を考えたら、もっと大きい人だったりがいるじゃないですか。そうしたら「自分、なんでこんな小さいんだ」ってなるわけです。そう考えたら、そう思う新しい心が生ずるわけです。だから、それだけのことですよね。

Q:頭でっかちに何か1つの考えに固執してはいけないと?

そうです。1つのことに意識を持ちすぎるんだったら、新しいこと、新しい思いを持った方がいいのです。もしくは、他のものと比較することでまた新しい心が生ずるわけです。新しい心が生まれるから、そちらの方に行けばいい。ただし、執着することも、比較していることも大事なことなのです。「すぐ忘れたらいいや」じゃなくて、忘れたことは大事に思わなきゃいけない。だから、その執着が壁だとして、その壁を乗り越えたら、乗り越えたことも絶対に大事だということです。(茶室に掲げている句)「応無所住而生其心」、住むところがない、自分の居場所がないということは、そこに執着するな、執着をしないことで心が生まれてくるんだってことですね。辛くて、嫌だなという思いをしたり、マンネリ化してきたなと思っても、次に新しい心は必ず生まれてくるんですよ。

Q:ビジネスの世界にも共通する話だと思うのですが、目標に向かって進んでいる中で、壁に直面することがあります。どういう意識でそこに立ち向かっていけばいいのでしょうか?

それも同じですよね。その壁のことを忘れることです。壁のことを忘れれば、新しいことが生まれるんです。だからまず忘れること。忘れられないんだったら、忘れられないってことがまず壁なわけです。だから、それすら忘れてくる。そうすれば、どんどん小さくなりますから。上に登っていったら、その存在も小さくて全然見えなくなるじゃないですか。

Q:例えば1年後に大きなプロジェクトがあるとか、頭から完全に消すことができない場合はどのように捉えれば良いですか?

それは壁じゃないですよね。1年後にあるものは壁じゃない。それは向かう「場所」なので、壁という意識ではなくて、少しずつ登っていくような意識を持つことですよ。そこを頂上と思ってはいけない。1年で終わりなんであれば、イメージ的には、登った後に、そこから下って、さらに大きい山があるようなイメージを持つ方がいいですね。

Q:壁と捉えるか山と捉えるかで考え方が変わると?

全然違いますよ。もし心が弱ってる人に言うんだったら、「壁ではなく山だ」って言えば乗り越えられますよね。その先があるのだから、壁を登っても上からの眺めって絶壁ですからね。その景色は、山とはまた違いますから。

Q:忘れることが大事という話にも通じるように思うのですが、多くの人は、無意識に自部自身で問題を難しくしていたり、苦しい立場にしているということでしょうか?

そう思います。 人の心を意識することも大事なんですけど、最終的には自分の心ですよね。その心をクリアにする。それを「洗心」、洗う心って書くんですけど、心を洗う。そうすると綺麗になるでしょう。それが大事なので。例えば、この茶室でお茶をいただいて、お稽古をして、でもいいし、何かお話しててもいいので、外に出た時には心は洗われてるんじゃないですかね。日常に戻ったら、戻った時の心はクリーンだから、それだけ心が強くなってるってことですね。

Q:茶道の目的が作法を覚えるだけでなく、心を強くするというのは、そういう意味ですか?

よく敷居が高いという風に言うんですが、そう言う人達は、敷居の下で寝転がってるだけなのです。「高いから、高いから」って来ない人たちはずっとその下にいるわけでしょう。頂上に登ってこないじゃないですか。富士山だってそうですよ。そういう人は1合目までも寄らないですよ。ただ、山の楽しみ方って、頂上へ登る楽しさと、遠くから眺める楽しさもあるんですよね。だから、今寝転がっているって表現をしましたけど、その人たちにはその人達のお茶の楽しみ方もある。「本当に敷居が高いのかな」って考えただけでも、少しは上に上がってるんですよ。それがすでに向上なのだと思いますね。

Q:一歩を踏み出せば自分自身の中に、必ずプラスの変化が生じるということですか?

チャレンジするっていう風にまず自分で思うってことですよ。チャレンジするってことは、新しいところに行くことですからね。挫折しても、チャレンジしたことがプラスなわけで、壁に出会ったことがプラスですよね。挫折したっていう過去も、プラスなのです。だから、チャレンジすればするほど、そういうことに出会えるので、全部自分自身が上に行っているわけだから、どんどん挑戦するべきですよね。マイナスに考えちゃダメだし、新しいものを発見したってことをプラスにとらないとね。/だからこそ、「非日常」というのはすごく大事で、「これは普段ないことだ」と思えば、そこから意見がどんどん出ますから。「あぁ良かった」とか「これが続くと嫌だね」とか。それは新しい発見なのです。それを感じることで、もう一段登ったのかなと思いますね。

Q:貴重なお話を本当にありがとうございました。北見先生自身が今、チャレンジされていることなどはあるのですか?

小唄を7年ぐらいやっていますね。お師匠さんについて、神楽坂で稽古しています。後は、パントマイムもやっていましたね。マイムはやっぱり型が一緒なんですよね。だから、踊りの型もそうですし、スポーツの型と、やっぱりその所作の中で似てる所作があるなって思うと、実際やってみないとダメだよなって。そうやって習うこと、違うことを身につけるっていうのが、私にとっては非日常なところもあるんですけど、新鮮なのと、こういう風にして教えるといいんだなとか、全部通じてますよね。

Q:THE WORDWAYは「言葉」を伝えるメディアです。最後に、北見さんが現在大切にしている言葉を教えてください。

『謝茶』っていう、感謝の謝にお茶の茶で、謝茶ですね。お茶がなかったら、今、この場はありませんから。それと『糸』。私たち日本人は糸をみんな出してるんですよ。系図だったり、昔学校であった連絡網とかね。みんなそうやって糸で繋がってるようなイメージですね。その糸を『結ぶ』というのが吉でしょう。でも、糸をお互い引っ張り合うと切れてしまう。その半分の力っていうのが、糸へんに半で『絆』なんですよね。「糸」は、面白いなと思っていますね。
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PROFILE

北見宗幸(きたみ・そうこう)1972年東京都生まれ。一般社団法人茶道文化振興会理事長。東京・高田馬場にある「茶道会館」講師。裏千家茶道教授。講演などを通して茶道の文化を伝えつつ、テレビやCMなどでも活躍。雑誌「和楽」(小学館)などの連載でも人気を集めている。佐渡・鈍翁茶会の監修もしている。

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