Photo by Kondo Atsushi

「苦しさがあっても、そこから逃げられないのなら、その中で楽しめばいい」

西高辻󠄀 信良 #3

今回のアチーバーは、福岡県の太宰府天満宮第39代宮司・西高辻󠄀信良さんです。「学問の神様」として慕われる菅原道真公の御墓所の上に建てられた太宰府天満宮は、道真公を祀る全国約1万2000社の総本宮と称えられ、西高辻󠄀家は子孫として代々宮司職を世襲しています。西高辻󠄀さんは1983年から、息子の信宏さんにバトンを渡す2019年3月まで責任者である宮司を務め、歴史や伝統を守る重責を担いつつ、音楽や芸術との接点を積極的に作る先進的な取り組みでも注目を浴びました。「伝統」と「革新」―。組織、企業を発展、継続させていくための本質を、様々な時間軸で物事を捉えてきた西高辻󠄀さんの「WORD」から感じてください。今回は全3回連載の最終回です。

Q:今、太宰府天満宮は息子の信宏さんが継がれていて、西高辻󠄀さんは「鬼滅の刃」でも話題になった宝満宮竈門(かまど)神社で宮司をされていると聞きました。

私の父も祖父も竈門神社でもご奉仕をしていて、私が30歳の時、太宰府天満宮の宮司就任とあわせて竈門神社の宮司にも就任しました。以来「いつか竈門神社を、本当にいい神社にできればな」と思い続けていたんです。竈門神社というのは方除けの神様で、縁結びの神様、また御祭神が女性の神様なので、心優しい神社、女性がお参りしたい神社をイメージし、平成25年(2013)、創建1350年の節目にあたり、社殿の修理と授与所の新設をしました。ちょうどインスタグラムなどSNSの普及もあって、口コミで噂が広まってお参りが増えだしたんですね。宮司就任から30年経っていました。

Q:長年の思いが形になったということですね。

だから夢を絶対諦めないことだと思うんですね。志を諦めないこと。本当に、いつかはなんとかなるような感じがする。それくらいのいい加減さとポジティブさでも、やっぱり待つ甲斐はあるんですね。でも、チャンスを逃さないようなタイミングでやることは、やっぱり大切かなとは思います。ですから、僕らの仕事って1人でやるわけじゃないから、永遠の中の一部分を預かって、その一部分を精一杯に生きるということを基準として、ご奉仕をさせていただいてるんで、先祖たちが頑張ってくれたんで今の形があって、それをどうやって、本当に未来に対して、プラス1点ずつ取りながら、みんなが繋いでいってくれるかなっていうことが、やっぱり僕らの仕事の中で一番大切なことじゃないかなと思っています。

Q:「永遠の中の一部分を預かる」というのはすごく印象的な言葉だなと思います。大きな使命と、責任と歴史を背負う中で、モチベーションが下がってしまうことはなかったのですか?

逃げようがないですから。苦しいと思えば、ずっと苦しいんです。重たいんです。背負いきれないと思ったことも、何度もあります。でも、そう考えても、その場から逃げるわけにいかないんで、じゃあどう楽しむのか。逆転の発想ですけど、その中でどう自分らしく、先祖とともに生きれるかな。苦しさも、そこから逃げられないなら、その中で楽しもうと思いましたね。辛いこともいっぱいあったけど、「辛い」をちょっと変えれば「幸せ」って字になりますから(笑)。

Q:「THE WORDWAY」は言葉を大切に伝えることを目的としたメディアです。西高辻󠄀さんが苦しい時を乗り越えるきかっけになったり、人生に影響を与えた言葉だったりはありますか?

よく家内に言われていた「あなたの本業は何?」って言葉ですね。私が横に逸れそうになったり、他のこともしたいなと思う時、優先順位をつけなければいけない。そこで必ず「あなたの本業は何、あなたのつとめは何?」って。それはやっぱり先祖とともにいることだから、そこからずれちゃいけないよねって。道を外しそうになることは、人間だからあるし、他にやりたいこともいっぱいあった。でも最終的に、「あなたはどの道で生きてるの、一番大切なのは天神さまにご奉仕することじゃない?」って。他の様々な役がまわってきて、受けることがあっても、最終的には一番優先しなきゃいけないことは何なのかってことですよね。

Q:自分の中心に存在する役割と、やりたいことを組み合わせながらやってきた感じなのですか?

そうですね。どんどん横の仕事が忙しくなってきましたけど(笑)。でも、どっちか最終的に選ばなきゃいけないときに、やっぱり「あなたはここの土地に住んで、ここの現場にいて、天神さまと一緒に生きることが一番最優先なのよ」って。それを見失えば、どんなにいいことをしてても、それは世の中、社会のためにならないということなんでしょうね。

Q:今回、太宰府天満宮の中でお話を聞かせていただいたわけですが、西高辻󠄀さんが大切にされている「入った瞬間に何かが変わった」という感覚を与えるというのは、ビジネスの原点だとも感じました。(※第1回参照)

今の人たちが一番衰えているのが五感なんです。人間、スポーツ選手もそうだけど、基本的には、その五感をどのくらい予測ができるかだと思うんです。ここで言えば、参道を上がって、左に曲がった瞬間の空気感が変わらないと、神社じゃないと思っています。この天満宮の横に来て、参道の一番下から上がってくると、正面に杜が見えてくるんですね。その空間を移動しながら、少しずつみなさんがその気になっていく。それは、僕はあの杜がやっぱり生きてるからなのかなと思っています。

Q:参拝者の目線で考えれば、そういった自然の雄大さや、歴史が紡いできたものの大きさを感じられるメンタルを持てているかが重要だとも感じます。

日本人は、自然に対しても、畏怖の念を持っているんですね。「怖い」じゃなくて、「畏れ多い」という感性です。だからその恵みに対して、感謝をして生きていくと。それをビジネスだからといって多く作って、物をたくさん売るんじゃなくて、、取れるだけを食べ、命もいただきながら生きてきたのがこの国、我々の民族の生き方だと思いますね。

Q:西高辻󠄀さんにとって「宮司」という仕事をする上で大切にしてきたものは何でしょうか?

めぐり逢い、出会いが、一番大切なことだと思います。私も、いろんな人と私もめぐり合ったおかげで、今があるという感謝の気持ちが自分の根底にあって、「じゃあ自分が何が出来るのかな」と思って、自分のできる精一杯のことをやっていくことだと思うんですね。だから、太宰府天満宮を「文化財」って言われるのがあまり好きじゃないんです。少なくとも、神社は生きています。この時代に生きている。ですので、文化財ではないんです。もちろん、御本殿は420年年経っていますので、一般の方から見れば文化財かもしれない。でも、私にとっては御本殿は天神さまのお住まいだと思っています。亡くなられた方だけれども、21世紀の今を見て、天神さまならどう思われるかを常に考えるのが私たちの役割だと。ですから、この時代の中で生きている天神信仰を広げていくのが、私にとっては一番大きな仕事なのかなとは思ってますね。

Q:人間関係や他者との結びつきを持つことが苦手な人が増えていると聞きます。歴史ある組織のリーダーとして、意識していることはありますか?

どんな人にも嫌な人はいますよ。僕らにだって、嫌な人はいます。しかし、やっぱりみんなが同じ方向を向く、その方向性をちゃんと示すことが大切じゃないかなと思います。それは、「考え方とか生き方が違うかもしれんけど、同じ方向を向いていこうよ」ということですね。例えば当宮ですと、新しい職員が入ってきて、最初に何をやるかというと、笑顔を作ることからやるんです。笑顔の研修ですね。いろんなこと知らなくても、笑顔を作ることは神様も喜んでいただけるし、お参りに見える方も喜んでくださる。笑顔を作ることによって人間ってポジティブな考え方ができるようになるんです。

Q:大きな夢や目標に向かって闘っているビジネスマンに向けて、自分を磨くという意味で何かアドバイスはありますか?

私は神職さんにとって大切な要素の1つは爽やかさだと思っています。また若い頃、ある方から「物を買う時に、西高辻󠄀くん、どういう物を買うの?」って聞かれたんです。例えば、ここにあるような器とか。そこで「チャーミングってことを学びなさい」と言われたんです。チャーミングって本当に難しくて、自分にそれだけのストックや知識がないと、どれがチャーミングかが分からない。だからチャーミングな神社にしようとね。それともう1つ。これは、あるバーで役員の方に言われたんですが、「福岡は女性は素晴らしいけど、男がダメだ」と。それは、福岡の男性は座ったときに、スーツから足が見える人が多いって。何が言いたいかというと、おしゃれできちんとマナーを知っていないといけない気がするんですね。これからの時代にビジネスマンに必要なのは、本当の意味でクレバーでありながら、熱いハートを持ってスマートに生きるって言うのが、ひとつの考え方じゃないかなと思いますね。

Q:貴重なお話をありがとうございました。最後に、西高辻󠄀さんの今後の目標を聞かせて下さい。

まず命がある限り、太宰府天満宮の未来を見続けていきたいなと思っています。ある意味では、今を支えてくれてる職員たちは、本当に子どもの頃から見続けてきた子供たちなので、彼らがこの今の責任ある世代を、次の世代にどうやってバトンタッチしていくかって、その姿をやっぱり言葉で何をしなさい、何しなさいっていうことはないんだけど、そのことは見続けていきたいなと思います。地域に対してもお役に立って、元気でいる限り、何でも言われたことはイエスと言うことを前提に、生きていきたいですね。まだ、そういうお声がかかるのは、多分役割があるんだろうなと思っています。
この記事をシェアする
THE WORDWAYでは、読者から、アチーバーの記事を読んだ感想を募集しています。記事を読んだ感想、「昨日の自分を超える」トリガーになったこと、アチーバーの方々に届けたい思いなど、お送りください。いただいたメッセージは、編集部から、アチーバーご本人に届けさせていただきます! アチーバーに声を届ける

PROFILE

◆西高辻󠄀信良(にしたかつじ・のぶよし) 1953年(昭和28年)、福岡県太宰府市生まれ。慶応義塾大学文学部を卒業後に、國學院大學神道専攻科修了。1983年に太宰府天満宮および竈門神社宮司に就任。2019年太宰府天満宮の宮司職を長男に譲り、宝満宮竈門神社を本務神社とする。祭典奉仕に務める傍ら、太宰府天満宮幼稚園園長として教育分野に携わるほか、九州国立博物館評議員や、2022-2023年度福岡ロータリークラブ会長など、様々な役職を兼任している。

HOW TO

THE WORDWAYは、アチーバーの声を、文字と音声で届ける新しいスタイルのマガジンです。インタビュー記事の中にある「(スピーカーマーク)」をクリック/タップすることで、アチーバーが自身の声で紡いだ言葉を聞くことができます。

RECOMMEND

あわせて読みたい

THE WORDWAY ACHIEVERS

毎週月曜日に順次公開していきます

  • Haneda Takuya