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Photo by Kondo Atsushi
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「テープを切ったことの意味を噛み締められる人は、次の目標も勝手に出てくるはず」
真山 仁 #2
今回のアチーバーは、「ハゲタカ」シリーズなどで知られる作家の真山仁さんです。高校生の頃「小説家になる」と決意した真山さんは、同志社大卒業後に中部読売新聞社(のち読売新聞中部支社)に就職。新聞記者、フリーライターを経て、2004年に企業買収の裏側を描いたデビュー作「ハゲタカ」が大ヒットし、一気に人気作家の仲間入りを果たしました。その後も、原発のメルトダウンに迫った「ベイジン」、農薬をテーマに日本の食のあり方を問う「黙示」など、幅広い社会問題を現代に問い続けてきました。小説家として大切にしている言葉は「正しさを疑え」。難しい時代の中で壁を乗り越えるために、何を考え、どう行動すべきか―。真山さんの「WORD」の中から、壁を乗り越えるヒントを見つけてください。今回は全3回連載の2回目です。
Q:真山さんは、「ダブルギアリング」に続き、04年に発表したデビュー作「ハゲタカ」でも不得手な経済小説に挑みました。ビジネスの世界でも、目標を達成するために、こだわりを捨てなければならないケースは少なくありませんが、理想と現実の間でどのように考えを変えていったのですか?
個人で独り立ちして、クリエイティブの仕事をしようと考えているなら、必ず覚えておいた方がいいことがあって、デビューすること自体は割と簡単なんです。その後続けることの方が大変で、最初はこちらの自由はないです。条件がいっぱいあって、その条件を飲むならもう1本どうぞって言ってくる。その際、できるだけ短期間で仕上げて発表できるかがとても大事なので、スタートラインは、ある意味地獄の始まりと言ってもいいぐらいです。私も、国際政治の小説を書きたかったんですが、「(ダブルギアリングで)結果が出た以上、経済(小説)からいっていただかないと」と。ただ、クリエイティブの仕事では、別の看板を掲げても自分が好きで触れてきた物がどこか必ず影響します。私も、「枠は経済小説でも、自分の中では陰謀小説を書くつもりでいよう」と。そうして、結果的に変わったタイプの経済小説「ハゲタカ」が生まれたんです。Q:可能性を広げるためにも、理想の形を変える柔軟さも必要だということですか?
自分らしさって、難しいんですよ。小説とかエンタメとかをやってる人たちって、少なくとも自分は厳しい読者であり、厳しい鑑賞者であるっていう自負があると思うんですよ。ということは、「自分が満足できるかどうか」がすごく重要なんです。私の場合は、小説家になろうと決めてから実際になるまで25年ぐらいかかってるんです。私は自分で変わった小説家だと申し上げましたけど、それはなぜかと言うと、自分が世の中や、人間、世界の有り様を見ていて、「おかしい」と私にだけ見えていることがたくさんあるから、それを小説にしたいわけです。自分の持っている数少ない、他と違うものをどうやって小説に昇華していくのか、その見えているものを、小説を楽しんでもらいながら「面白いな」と思うけど、「でも怖い」とか、「自分達は勘違いしてたのかな」っていう風に自然に思わせたい。Q:「こだわり」が、自分が果たしたい目的に対するものなのか、好き嫌いといった表面的な部分にあるものなのかを整理することが大切だということですね。
よく、「あなたの夢は何ですか」って聞かれたときに、職業を言いますよね。例えば「カメラマン」とか「小説家」。そういう人ってなったら終わるんです。でも本当にやりたい人は、私みたいに小説家になって、何々をしたいっていうものを持ってなきゃいけないんです。就職活動とかのインタビューを受ける時に最近言うのは「何かになりたいんじゃなくて、何をしたいかということを思った方がいいよ」って言うんです。商社に入って、世界のビジネスを知って、いずれアフリカと日本をつなぐ役割をしたいんだとしたら、商社に行く意味があるじゃないですか。でも、もしかしてJICAに行く方が良いかもしれない。やりたいことを第一に据えたら就職先の選択肢は1つじゃない。そこがすごく重要です。私の場合は25年かけて、ようやくスタートラインに立てた以上は、とにかく貪欲にいろんなアプローチをして、自分に見えているものをどうやって面白く伝えるのかっていうことに一生懸命に取り組もうと。始めた時からずっと、いろんな試行錯誤を続けています。Q:自分自身を成長させていく上で、得意なことを追い求め続けるのか、困難で恐怖心はあっても、その先に可能性が広がっているだろう道を選ぶのか。2つの選択肢がある場合、真山さんはどのような立ち向かい方がいいと思いますか?
年を取ると、だんだん楽な方に流れて行きたくなるものです。私のように、小説家になりたいと25年間も言い続けるのは珍しいですよね。多くは、途中で挫折してしまう。結果的に今こうして小説家になっているから言えるのですが、困難は自分への試練であり、ウエルカムだと考えるようにしていました。先ほど(♯1)言った、「変わっていることはプラスに考えればいいよ」と言いましたが、これも他人事なら分かりますが、実際に自分のことではなかなかそんなこと言えない。特に、子供の頃は言えないと思うんですよね。でも、小説やドラマや映画などエンタメでそういう人をフォーカスすることによって、成功しているどんな人も、大なり小なり困難を乗り越えてきていると分かってもらえる。野球で4割バッターはすごいことだけど、考えてみると、4割バッターって10回のうち6回凡退してるんですよね。つまり、強い人はこの6回の失敗をちゃんと見てるから4回も成功できるのです。ですから、困難にしっかりと目を向けている人が立ち向かっていけるし、立ち向かうことでしか分からないものがあるってことなんですよ。Q:失敗から学ぶこともたくさんあると?
若い学生と議論をする機会があると必ず、彼らに「20代はたくさん失敗した方がいい」と言っています。なぜなら、今の若い人、特にエリートは挫折が嫌いですけど、負ける怖さや、負ける辛さ、負けることを乗り越える努力を身をもって知っている人が強くなるんです。幸せや喜びっていうのはめったに来ないから楽しい。例えば、サッカーが好きだけどすごく下手、でもなぜか野球は速い球でもバットに当たるという人がいたら、野球選手になるべきなんですよ。ただし本人はサッカーが好きでしょうがない。それなら、とことんサッカーをやればいいんです。どこかで自分には向いていないと気づくか、あるいは野球にいくかもしれない。今の多くの人ってちょっと失敗したらやめちゃうんですよ。行き着くとこまで行って、ここまで練習して、ここまでやってそれでダメだったら諦められるんですけど、今それをしなくなったんですね。そういう意味でも、いろんなものにチャレンジして、そうすればたくさん得るものはあります。Q:「THE WORDWAY」は壁を乗り越え続けるというテーマを掲げています。真山さんは「ハゲタカ」で大きな成功を収めましたが、次のステップにはすぐに移れたのですか?
デビュー作がドラマ化されたのはラッキーなことでしたし、「ハゲタカ」は、よく頑張りました。ただ、本来私がやりたかったのは国際政治や、社会の見えていない闇を小説を通じて照らしたいわけですよね。始めに経済小説家だと認識されたので、書きたいジャンルを書けるようになるまでに10年ぐらいかかったんです。ずっと「ハゲタカ」を書いていたら、もしかすると大ベストセラー作家になったかもしれないですけど、自分の中ではone of themで十分なんです。デビュー作が大きすぎると、重たいんですよ。未だに新作を出すと8割9割は、「ハゲタカ」の真山が描くなんとかと帯や紹介文に書かれるわけですよね。これを怒る人もいますが、それはないです。私にとって原点であるのは事実なので。ただ、書いている人間からすると、17年もキャリアを積んでいてデビュー作を越えられないのはダメなので、多くの人に知ってもらえたことは嬉しくはありますけど、やっぱりそこを超えたいっていう思いはすごくありますね。Q:ビジネスマンでもスポーツ選手でも、夢が叶った後や満足感を得た後に悩みを感じる人は少なくありません。次のアクションを起こすためのアドバイスはありますか?
自分の目標を達成したら、必ず次の目標を見つけられる人がいます。つまり、これができたら今度はここが足りないと分かる人もいるんです。その場合はただひたすら自分の目標を追いかけ続ければいいんですけど、なかなか難しい。なぜかというと、目標がトロフィーだからです。つまり、ホームラン王とか、ベストセラーとか、なんとか賞とか。残念ながらそれだと続かない。これを取るとトロフィーをもらえるんで、ホッとしますよね。けど、ずっと続けられる理由って、単純に好きだからとか、面白く感じて飽きないとか、感情的な強さや、こだわりがあるはずなんですよ。つまり、全部がトロフィーが目標じゃないんですよね。もっと、なぜ続けられてるのか、なぜこのことに関してだけはここまでこだわるのか。いい加減な人なのに、1個だけすごいきっちりやることって人にはあると思うんですけど、それはこだわり、特に好きだっていうことを前提としたこだわりがあるんですよ。だから、そこを探すことだと思います。Q:自分が歩んできた足跡に大切なヒントがあるということですね。
そう思います。その職業や形やトロフィーにこだわってる人にとっては、ずっとテープを切ることしか頭にないんですね。でも、このテープを切ったことの意味をちゃんと噛み締められる人にとっては、勝手に出てくるはずです。だから、自問自答ってすごい大切で、自分は今現役として絶頂期にいるけど、「これ何年続くんだろう」「自分が尊敬する大先輩でも3年しか続かなかったら、自分は2年しか続かないかもしれない」って思うはずなんですよ、本当は。もし、それも思わないんだったら、その人やっぱりもっと短いキャリアで終わるはずなんですよね。最後は自分と付き合っていくしかない人生なので、そういう自問自答のコミュニケーションをやっていけば、次何をしたいかが見えないというのは多分ないんです。真山さんの「THE WORDWAY」。次回♯3は、真山さんが仕事を円滑に進めていくための流儀、小説家として作品に込める思いを語ります。今の日本に必要な「足るを知る」とは何なのか。60歳の真山さんが送る、若い世代への「言葉」を感じてください。
THE WORDWAYでは、読者から、アチーバーの記事を読んだ感想を募集しています。記事を読んだ感想、「昨日の自分を超える」トリガーになったこと、アチーバーの方々に届けたい思いなど、お送りください。いただいたメッセージは、編集部から、アチーバーご本人に届けさせていただきます! アチーバーに声を届けるPROFILE
- ◆真山仁(まやま・じん)1962年、大阪府生まれ。1987年、同志社大学法学部政治学科卒業後、新聞記者として中部読売新聞(現・読売新聞中部支社)に入社。89年、同社を退社し、フリーライターに。2004年、企業買収の世界を描いた「ハゲタカ」でデビュー。同作品はシリーズ化され、18年にはテレビ朝日系で連続ドラマ化。今年6月に沖縄の闇に踏み込んだ最新作「墜落」、9月には岩波ジュニア新書の書き下ろし「”正しい”を疑え!」を発表した。
HOW TO
THE WORDWAYは、アチーバーの声を、文字と音声で届ける新しいスタイルのマガジンです。インタビュー記事の中にある「(スピーカーマーク)」をクリック/タップすることで、アチーバーが自身の声で紡いだ言葉を聞くことができます。 CATEGORY
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