Photo by Kondo Atsushi

「言葉に出すことはすごく大事。言葉で相手を引っ張ってあげることもできるし、しんどさを楽しさに変えてあげることもできる」

田中史朗 #2

今回のアチーバーは、ラグビー元日本代表の田中史朗さんです。伏見工高、京産大を経てパナソニックなどでプレーしてきた田中さんは、広い視野と卓越したゲームメイクを武器に長く日本代表として活躍。11年、15年、19年と3大会連続でワールドカップ(W杯)に出場しました。12年には日本人として初めて世界最高峰リーグ「スーパーラグビー」のハイランダーズと契約。世界の壁に跳ね返され続けてきた日本ラグビー界をリードし、15年W杯では南アフリカ戦での歴史的勝利、19年W杯では史上初のベスト8進出へとチームを導きました。道なき道を歩んできた先駆者がたどり着いた、「楽しむ」の本当の意味とは―。今回は全3回連載の2回目です。

Q:日本が世界を驚かせた2015年のW杯の話も聞かせて頂きたいのですが、南アフリカ戦は日本スポーツ史に残る歴史的勝利となりました。エディー・ジョーンズ監督(24年から日本代表監督に復帰)の指導でチームの何が変わったのですか?

意識の変化というのは1つあると思いますし、それによって日本ラグビーはすごく良くなったと思います。パワーやサイズといった能力の部分では世界より劣りますが、「小さくても戦える」という意識をエディー・ジョーンズが植え付けてくれました。具体的には、南アフリカを相手に、80分間走れるチームを作ってくれたわけです。相手が大きくて1の仕事しかできないのを、体が小さければ2の仕事をすれば相手より上回れるというのを、結果としても証明できたので、日本人の良さを最大限に出せた試合なのかなと思いますね。

Q:高い意識を持ち続けることはスポーツに限らず重要ですが、田中さんは、そのためには何が必要だと感じていますか?

環境を変えるというのは、1つすごくいいと思います。僕もニュージーランドに行ったり、環境が変わったからこそ、意識ができたっていうのもありますし。あとはゴールを持つ、目標を持つことですね。エディージャパンは、対戦国が決まった瞬間に「南アフリカに勝つ」というのを、2年間言い続けてきた結果、勝てましたし、ゴールを常に自分の中で持つことはすごく大事だと思います。世間とか世界はもちろん南アフリカが勝つと予想していたんですけども、僕は試合が始まって5分ぐらいで「行けるんじゃないか」と思っていましたから。

Q:エディー・ジョーンズ監督は、どのような手法で高い目標設定、高い意識を選手に植え付けていったのでしょうか。

意識が足りない選手を家に帰したり、「アスリートとしてのトップの意識を持った人しかここにはいられないんだ」という行動を取っていましたね。意識の中でちょっとでも外れている人がいると、チームとしても成り立たないですし、そういう人がいるとそこから崩れていくので、まずは日本代表としてブレイブブロッサムズにプライドを持ってる人が集まる集団にするということですね。最終的には、そういう意識を持った選手、勝ちたい選手というのが全員残ったんじゃないかなと思いますね。

Q:田中さんは世界で勝てない時代の日本代表も長く経験しています。リーダーとして、時に嫌われ役を担ってでも、そうした雰囲気作りを求めていったのですか?

僕は引っ張って、常に声をかけ続けましたね。当たり前ですけど、全員がやる気がなければそこで終わってしまいますし。でもやっぱり何人か意識が高い選手がいれば、日本人の良い部分であり悪い部分で、ついていくんですよね。そして、仲間がついていくとなれば「じゃあ、俺も」っていう流れができる。2015年までは、リーチ・マイケルや堀江といったリーダー陣が声をかけて「じゃあ、一緒にやりましょう」っていう感じだったんですけど、2019年のW杯の時には「自分たちで行こう」「俺も行くけどどうする?」「行こう」「行こう」「行こう」「行こう」ってそのリーダーがすごく多くなった。それが、今の日本ラグビーの良い部分だと思いますし、日本ラグビーが世界にワンステップ、ツーステップ近づいた証拠だと思いますね。

Q:後輩や組織を「引っ張っていく」というのは、ビジネスにも通じる考え方だと感じます。

シンプルに「ワンチーム」の気持ちですね。「僕たちはチームなんだ、家族なんだ」っていう。僕の中では家族ですね。ラグビーでは、ファミリーっていう言葉とかブラザーっていう言葉を使いますけども、家族ってすごく大事じゃないですか。ファミリーという思いで括ってると切り捨てることは絶対しないし、「一緒にレベルアップしていこう」っていう声がかけられるんです。だからこそワンチームとかファミリーとか、ブラザーという言葉は常に使っていましたね。

Q:「言葉」「声かけ」の大切さですね。

そうですね。それも、海外で学んだことなんですけど「Hey,Bro!」みたいな感じにフレンドリーに接していると、自然と本当の兄弟のような感覚になってきますし、喧嘩しても、「Sorry,Bro!」って仲直りもできるんですね。日本人の性格上、人に伝える事が苦手な人もいると思うんですが、言葉に出すことっていうのはすごく大事だと思うんです。言葉で相手を引っ張ってあげれば、しんどさも楽しさに変えてあげられるんです。例えば、100mを100本走るとなった時に「しんどいな」って周りが言っていたら当たり前ですけど、しんどいです。でも、周りが「よし、あと90本。みんなで声出していこうよ」って言うだけで、「よし!」ってなるんですよ。そうした部分は会社などでも、共通しているんじゃないかなと思いますね。

Q:良いコミュニケーションを取るためのアドバイスがあればお願いします。

お互いの良い部分を褒め合うのはもちろんですが、逆に悪いこともちゃんと伝えてあげるというのも、必要だと思います。その人が悪いことをやっているのにそれをそのままにして会社内でもチーム内でもやっていくと、組織全体が下がっていくので。パスが遅いんだったら、「パスが遅いからもうちょっと早くして欲しい」とか、「そのためのトレーニングはこれがあるから」ということを具体的に伝えてあげる。その時に100%伝わらなかったとしても、言われた人も「自分の悪いことを言ってくれて、解決方法も言ってくれた」と気づく時がくると思うんですね。それでも分からない時のために、コーチがいるんですから。それは会社で言えば、部長さんとか、主任さんとかそういうリーダーの方かもしれないですが、そこを頼るというのもすごく大事です。だからこそ頼られる人たちも、言ってもらえるように常に勉強して、こういう会話術とかも学んで、いろんな人に気持ちよくなってもらって、成長したいなと思えるような環境を作ってあげるのも重要だと思いますね。

Q:そうしたコミュニケーションが取れる組織であれば、仕事も円滑に進められますし、モチベーションも高まりそうです。

グループの規模は様々ですし、2人でペアを組んだり、3人、多い時は10人とか、それがまた会社全体になれば確実に成長はできると思うので、どれだけ気持ちっていうものを本気で持っている社員の方、プレーヤーがいるのかが大事になってくるのかなと思いますね。

Q:田中さんたちが選手の意識を変えたことで、今のラグビー日本代表があるのですね。日本開催のW杯では、そうしたチームの熱がファンにも伝わり、熱狂的な盛り上がりにつながりました。

グラウンド全体の君が代っていうのは、今後もうないんじゃないかなっていうぐらいの皆さん声を出してくださいましたし、若い頃は歌うのが恥ずかしいっていう選手もいましたし、ファンの方もあまり歌ってくれなかったんですよね。それが、みんなが1つになって、本当に日本がワンチームになったからこそ、あの大きい君が代っていうのを歌えたのかなと思いますし・・・この話をしているだけで、本当に泣きそうですね。

田中さんの「THE WORDWAY」。次回♯3は、ジュニア世代が成長を加速させるためのアドバイス、限界を突破するための考え方を語ります。田中さんが実践してきた「言葉」の使い方とは―。壁を乗り越えるヒントを見つけてください。

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PROFILE

◆田中史朗(たなか・ふみあき)1985年(昭60)1月3日、京都市生まれ。中学1年の時にラグビーを始め、伏見工―京産大を経て三洋電機(現パナソニック)に加入。広い視野で1年目から活躍すると、08年に日本代表に初選出され、同年のアラビアンガルフ戦で初キャップを獲得。11年、15年、19年とW杯には3大会連続で出場した。日本代表キャップは75。13年にニュージーランドのハイランダーズと契約し、スーパーラグビーに日本人として初めて出場。15年に優勝を経験。19年にキヤノン移籍、21年からはNECでプレーしている。

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