Photo by Kondo Atsushi

「『ここだけは絶対に負けない』という強いものがあるから、他の事で負けても悔しくない」

澤 穂希 #1

今回のアチーバーは、サッカー界のレジェンド澤穂希さんです。澤さんは、91年に読売SC女子ベレーザ(現・日テレ・東京ヴェルディベレーザ)に入団し、15歳の若さで日本代表デビュー。主将として臨んだ11年のW杯ドイツ大会で「なでしこジャパン」を優勝に導き、MVPと得点王に輝きました。同年度のFIFAバロンドール授賞式にて「女子年間最優秀選手賞」を受賞するなど、日本のサッカー界をけん引し、15年の引退まで歴代最多となる国際Aマッチ83得点を記録しました。世界に挑み続けた中で得た「個の成長」「強い組織」に必要なものとは―。澤さんの経験の中に「昨日の自分を超える」ための言葉があります。今回は全2回連載の第1回目をお送りします。

Q:引退から6年がたちましたが、ボールを蹴りたいなと思ったり、現役時代を懐かしく思ったりする時はありますか?

サッカーをやりたいって気持ちは今、1%もないです(笑)。それくらい、本当に最高のサッカー人生で、やりきったなと心から思っているので。もちろん、女子の普及とか、自分にしかできないこともあると思っていますし、そういう面で貢献していきたいと思っています。

Q:個人としてW杯で得点王、MVP、チームとしても主将としてチームを世界一に導きました。「やりきった」という24年間の現役生活を振り返って、目標に向かって挑み続ける一番の原動力は何だったと思いますか?

やっぱり「負けず嫌い」というところかなと思います。負けたくないと思うことには、とことんこだわってやってきましたね。

Q:小学2年生歳から本格的にサッカーを始められたそうですが、負けず嫌いは、幼い頃からですか?

たとえば、練習の時にじゃんけんで負けた人がビブスをつけるんですが、そのじゃんけんも負けたくなかったですし、練習から負けず嫌いを出していました。 同年代の選手達にも負けたくなくて絶対自分の方が先に試合に出るぞ!って思っていましたし、練習中からバチバチ当たり合ったりしていました。いがみ合いとかではなく、お互いを高めるためにそういう存在は必要だったと思います。

Q:15歳で日本代表に初選出されましたが、周りが年上の選手ばかりという環境でもその姿勢は変わらなかったのですか?

日本代表に選ばれた時は、本当に試合に出たくて。出る機会がなかったころは、めちゃくちゃアピールしてました。私は、普段は先輩達が走っている後ろについていく感じだったんですけど、この試合は出られるんじゃないかって時は、一番前で走ったり、試合前に監督の前で「自分いるよ」って全力でウォーミングアップをしたりしていました。

Q:当時の日本は、実力的には、アメリカなどの強豪国とは大きな差がある時代でした。澤さんも、少しずつ日本代表の中心選手になっていくわけですが、個人の成長、チームの進化、両方を追い求める上で、考え方に変化などはありましたか?

少しずつ変わっていきましたね。若い時は、自分のことしか考えられないというか。相手のこととかを考える余裕がありませんでしたが、経験を積んでいく中で、余裕ができて、人のことも見れるようになったと思います。

Q:視野が広がったということですか?

30歳を過ぎてから、サッカーがちょっと分かったというか、今まで見えていなかったものが見えて、やれることが増えました。それによって、サッカーがさらに楽しくなったんです。例えば、メッシ選手が11人いても勝てるかといえば勝てないわけで、いろんな得意不得意があって、(それぞれが)その長所を試合に出せば良いチームになる。自分の足りないところを他の選手がカバーしてくれることもあります。完璧な選手はいないから、不得意と思われる部分をみんなでカバーして、いいチームに仕上げていくっていう考え方ができるようになりました。

Q:考え方が変わったことで、澤さんの中の「負けず嫌い」な部分にも変化があったと?

自己分析してて、ここは「負けたくない」ってところと、逆に「負けてもいい」って思っちゃう部分があって、例えば足が速い選手に、勝てないって分かったら挑まないんですよ。そこは結構あっさりしてて、だったら自分がこの選手にないものは何かなと思って、自分の長所を活かしてやってました、ずっと。
私は走るのも速くないですし、ジャンプもスピードも、長距離とか高さとかも全然1番じゃなくて、誇れるものが一つなかったんです。自分より、ドリブルが上手いとか、テクニックを持っている選手はたくさんいました。だから、劣っている部分で挑むより、例えば高さやヘディングでは負けないとか、体の強さや、守備の時のボール奪取では負けないとか。その得意な部分を活かしてやるようにしていました。

Q:自分の中に、負けてもいい場所をつくるようなイメージですか?

人を認めるってすごく難しいじゃないですか。やっぱり、みんな負けたくないから、自分ができなくて、人ができるところって、どうしても認めたくないことが多いんだけど、でも、人間、完璧じゃないから、それを認めてあげると、すごく楽になると言うか。そういう気持ちだったかな、ずっと。

Q:人と比較せずに、冷静に自己分析することで、目指す方向がはっきりしてくると?

みんな、人と比べちゃうんですよね。誰かと比べるから、出来なかった時の喪失感が生まれる。ただ、今子育てをしていて思うことは、お母さん達も、自分の子と他の子と比べてしまって、「あぁっ」てショックを受けることもあるんです。私もそういうことはあったりするんですけど、やっぱりその子、その子に個性があるし、いいところがあるから、そこを伸ばしてあげたいなって。目標も同じで、人と比べないことが一番いいんじゃないかなと思います。比べたことで、その人のせいにするのも嫌だし、自分が納得するような目標とか夢をもつことが大切なんじゃないかなと思います。

Q:スポーツの世界だけでなく、人の成功を羨ましく感じたり、自分が劣っている部分に悩んでしまうことは少なくありません。澤さんのように受け入れるためには何が必要ですか?

私は、「ここは負けない!」っていう長所、「ここだけは絶対負けない」っていう強いものを持っているから、他の事で負けてもあまり悔しくないのかもしれません。 サッカーで言えば、大事な時にゴールを決めるとか、そういう決定力は誰にも負けないなって思っていたので、それが大事なのかなと思います。現役最後の時も自分で入れて決めたいとか、W杯とかでも、「ここぞ」っていうチームが得点を欲しい時の勝負強さは、サッカーをやってきた中での自分の強さだと思っています。

Q:「誰にも負けない」長所を持った選手が、互いの強みを認めて補い合うことが、結果を残す組織やチームには必要だと?

そう思います。みんなそれぞれ得意不得意があるから、マイナスの所じゃなくて、自分の長所を最大限活かした方がいいんじゃないかなと。そういう選手が集まった方が、チームも、会社も多分そうだと思うんですよね。全部はできないから、いろんな人の力を借りて、いい会社とか、いいチームに立ち上げられたら一番いいんじゃないかなって。

…澤さんの「THE WORDWAY」。次回♯2は、澤さんが11年W杯のチームの強さの裏側 について語ります。リーダーとして見た「強い組織」「勝てる組織」の共通点とは何なのか。目標を設定する時のヒント、挑戦し続けるための「言葉」があります。

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PROFILE

澤穂希(さわ・ほまれ)
1978年(昭53)9月6日生まれ、東京都出身。15歳で日本代表に初招集。W杯6大会連続出場。11年のW杯ドイツ大会で、なでしこジャパンの初優勝に貢献し、大会MVPと得点王に輝く。同年度のバロンドール授賞式にて「FIFA女子年間最優秀選手」を受賞。12年、4度目の出場となったロンドン・オリンピックで銀メダルを獲得。日本代表での通算205試合出場と83得点は、歴代1位の記録(22年3月末現在)。15年8月に結婚し、同年12月に現役を引退。現在は一児の母。

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