Photo by Kondo Atsushi

「悩む時間があるって事は、行動する時間が残っているって事」

鈴木 啓太 #2

今回のアチーバーは、サッカー元日本代表の鈴木啓太さんです。現役時代は、広い視野とリーダーシップを武器に日本代表としても活躍。J1浦和レッズのリーグ優勝、主将としてACLチャンピオンズリーグ優勝にも貢献されました。ファンを驚かせたのは、2015年。引退を機に腸内フローラに関するコンディショニングサポート事業を展開する『AuB(オーブ)株式会社』を設立し、起業家の道へ進まれました。大切にしているのは、「キャリア=人生」という考え方。ビジネスとサッカーで培った未来の切り開き方、挑戦を前にした「恐怖心」との向き合い方を、鈴木さんの「WORD」でお届けします。今回は全3回連載の2回目です。

Q:強い向上心があっても、夢中になれる仕事や、明確な夢や目標が見つけられないという人は少なくありません。鈴木さんは、自分にとって大切な「何か」を見つけるために、どのような考え方、行動が大切だと思いますか?

意識するってことだと思います。例えば、欲しい車が出てきた時に、街中にその車がたくさん見えてくることってあるじゃないですか。要するに何かを意識するかどうかなんです。自分が何のために生まれてきて、何のために死んでいくのかといった問いも、実はすごく身近なものだと思っていて、僕にとっては、近くにいる人を幸せにしたいとか、誰かに喜んでもらいたいとか、それだけなんです。そこから派生する自分の経験と、サインというのがあると思うので、「こういう風に生きよう」というのも、そこから出てくるはずなんです。外に探しに行ってもないんですよ。自分の中にしか答えがないのに、やっぱり人って隣の芝生が青く見えてしまったりする。その原因は、知識だったり、情報だったりするんですよね。

Q:知識や経験が夢や目標を見えにくくすることもあるということですか?

サッカーでも、本来は毎日芝生の上でボールが蹴れるというのは、子ども達からしたらこんな幸せなことはないんです。でも、大人になってプロサッカー選手になった瞬間に、給料を貰ったり、ライバルがどうとかいろんな事を考えたり、メディアの報道があったり、、試合の勝ち負けがある。要するに、外部の環境が出てくるんです。内側は、毎日芝生で、綺麗な芝生でボール蹴れたら、それだけで子供の頃って何もいらないわけですが、純粋に上手くなろうとしていたころから道が変わっていってしまうんです。だから、答えを外に求めがちなんですけど、自分の人生の中で大切な物って何かと考え始めると、それぞれのサインは内にあると僕は思っています。だからこそ、より自分のことを知ることが、大事なんじゃないかなと思うんですね。

Q:自分の人生をどうしたいのかを考えるには、まずは自分自身の内側を深く見つめることが大切だと?

社会の一員っていう意識は僕は必要だと思いますし、協調するとか、共感することも大事だと思うんですけど、やっぱり自分の軸とか、ルーツとか、大切にしてることなど、自分と向き合う時間を大切にしたほうがいいと思うんですよ。そのためには、いろんなことを経験するのが早いのかなと思うんです。話は少しそれますが、僕キャンプとか、アウトドアって好きじゃなかったんです。でも、行ってみたら、めちゃくちゃ楽しかったんですよ。そこに何か娯楽があったかと言えば、何もないんです。川があるだけなんですよ。夜焚火をしていたら、星があるだけなんです。でも、こんなに素敵なことはないなと思ったんですね。「川が綺麗」とか「星が綺麗」なんて、誰もが知ってるんです。違うのは、それを自分自身が経験するかしないか。そこで空を見上げるか見上げないかだけなんですよ。

Q:答えはすでに自分の中にあって、それに意識して気づけるかどうかということですね。

そう思います。でも、本当に分かっているのであれば、それを大切にするはずなんですよ。「健康が大切だ」って誰もが言うんじゃないですか。でも、多くの人が「時間がなくて」って言ったりして、それほど大事には考えていない。「いやいや、じゃあ何のために生きてるんですか」って。要するに、「問い」を間違えてしまっているんです。だから、答えが見つからない人は「自分の大切なものって何だっけ」という問いに向き合う時間を一度とってほしいですね。特に忙しい方々って、いろんなものに追われていると思うので。みんな忙しすぎるんです(笑)。自分の中の大切なものに向き合って、その後行動すると自然と見つかると思うんですよ。

Q:「自分との対話」ということですが、鈴木さんは具体的にどのような手順で、自分自身の本質や、価値観に迫っていくのですか?

僕の場合は、サッカーを始めたきっかけですね。初めてサッカーの練習に行ってゴールを決めた時に僕が何をしたかと言うと、母親を見たんです。母親が手を叩いて喜んでくれた。これは僕がサッカー選手になろうと思った一番最初の種なんです。要するに、誰かが喜んでくれるというのが、僕にとっての価値観なんです。そこからサッカーが上手くなりたい、もっと母親に喜んでもらいたい、自分自身も楽しいっていうことが積み重なっていったんです。だから、自分にとって何が「起源」だったのか、何が喜びだったのか、何でそもそもサッカーを続けようと思ったのかをずっと掘り下げていくと、最終的に「人を喜ばせたい」にぶつかるんです。

Q:深層にある「起源」に答えがあるということですか?

過程として、お金が欲しい、ポルシェに乗りたい、女の子にモテたいとか、そういうのが中学生ぐらいの時にはあるわけです。でもそれは本心じゃない。もし、そこで僕の掘り下げる思考が止まったら、僕は人気者になりたいんだなって、自分のサッカーの総括をするわけです。でも、そこからさらに自分との対話を時間軸で深めていくと、自分の大切なもの、「なぜこれをやってるんだっけ?」の一番最初の種が必ずあるんですよ。僕にとっては、誰かに喜んでもらいたいとか、共感したいということ。それが僕にとっての人生の生きる意味だし、「何で生きてるの、何のために生きてんの」という問いに対する答えだと思うんです。そういうことが誰でも必ずあるはずで、自分にとって何が1番の喜びなのか、うれしいのか。それを、人生というもので考えた時に、最初から最後までつながると、自分のやるべきことはこういうことで、このために生きるっていうのが分かるんじゃないかと思います。

Q:自分自身との対話で「起源」を見つけられたら、次は「行動」が大切だということですが、「行動」の部分で、鈴木さんが意識していることはありますか?

自分との対話が終わったら、あとはひたすら行動するだけなんです。なぜなら答えを知っているから。でもその答えをせっかくそこに置いたのに、ずらしてはいけないんですよ。それがずれてくると分からなくなっちゃうんで。僕も実際に起業して4年ぐらいの時に、すごく難しい時期があって、視野が狭くなっていたことがありました。その時に、ある人から「悩んでるんだ、いいね。悩んでる時間があるって事は、それだけ行動する時間がまだ残ってるって事だよ」って言われて、思ったんですよ。「悩んでる時間ってもったいないな」って。悩んでる時間があるなら、その分勉強した方がいいんです。

Q:下を向いて悩むより、前を向いて行動をする。そうすれば見え方が変わってきて、気づきが増える。そういう循環を作ることが成長につながるということですね。

そう思います。僕はサッカー選手である前に、一人の人間だと思っていたんです。なので、サッカー以外の時間は、違う業種の方々と話をしていたんです。そうすると世の中って広いなって思うんですよ。サッカーって素晴らしいし、選手はそこに100%を命を注ぐ。僕もそれは同じですが、外を知った上でそこに100%注ぐのか、サッカーしか知らずに100%注ぐのかは違うと思うんです。だから色々な人の考え方を知った上で、自分をさらに磨いていく。人生もそういう感じだと思うんですよ。生まれてから、社会とともに広がっていくけど、自分でフォーカスするところを見つけたら、そこにフォーカスしていく。で、また広がってフォーカスするところがあっての繰り返しですよね。そうやって、最終的に目的地に近づいていくんじゃないかなって思っています。

鈴木さんの「THE WORDWAY」。次回♯3は、鈴木さんが考える不安を乗り越えてポジティブに前進する生き方を語ります。人との対話からヒントを見つけられる人と見つけられない人の違いとは―。人生を楽しみ、挑み続けるために必要な「言葉」を感じてください。

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PROFILE

鈴木 啓太(すずき・けいた)1981年7月8日静岡市生まれ。東海大翔洋高校卒業後にJリーグの浦和レッズに入団すると、06年にJ1優勝、07年にはAFCチャンピオンズリーグ優勝に貢献し、2年連続でJリーグベストイレブンを受賞。06年には日本代表に初選出され、28キャップ。15年に現役引退し、腸内フローラに関するコンディショニングサポート事業を展開している『AuB(オーブ)株式会社』の代表取締役を務める。

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