Photo by Kondo Atsushi

「結果が出ないことをメンタルのせいにしているから、同じことを繰り返してしまう」

青木宣親 #1

今回のアチーバーは、プロ野球ヤクルトスワローズの青木宣親さんです。歴代6位となる日米通算2703安打の記録を持つ青木さんは、早大卒業後の04年にヤクルトに入団。卓越した打撃技術を武器に2年目にレギュラーの座を獲得すると、その後は首位打者3回、最多安打2回など数々のタイトルを手にし、スター選手へと駆け上がりました。2012年シーズンにはアメリカMLBのブルワーズに移籍。ロイヤルズ、マリナーズなどでも活躍し、2018年に古巣ヤクルトに復帰を果たしました。42歳となった希代のバットマンが、キャリアを振り返りつつ、MLB挑戦を通して変わった野球観、リーダーとして意識している声掛けなどを語ります。今回は全3回連載の1回目です。

Q:まもなく42歳のシーズンが開幕します。まずは、昨シーズンを振り返りつつ、球界野手最年長となったご自身のプレーをどのように捉えていますか?

(昨シーズンは)不完全燃焼な感じでしたし、もう少し時間が欲しかったですね。自分の良くなかったところ、エラーが起きている原因を追究して、それに対してアプローチしていく作業があったんですけど、それをやっていく中でまた問題も起こってくる。休む時間も当然必要ですし、それと同時に考える時間も大切だと思うので、その辺は本当に時間がもう少しあれば、解決していたんじゃないか、という感覚はありますね。

Q:近年は代打での出場など役割も変わってきていますが、青木さんがモチベーションを高く保ち続けている要因はどこにあるのでしょうか?

根本は野球が好きなので、楽しむようにしてきたということですね。当然楽しくするには問題を解決して、結果を出すことが大切で、結果が出ると楽しくなる。その作業の繰り返しです。それで結果が出ることで、より楽しさが倍増するということですね。今の立場で言えば、チームの勝敗に直接関わるような場面で1本のヒットを打つだとか、守備でも走塁でもそうですけど、あの走塁があったから1点が入ったとか、そういう試合の流れを自分たちの方に寄せる場面で何ができるかというところですね。1試合の中でその場面を見つけて、特に打席で言うと、その場面の役割というのは自分にしか与えられないものなので、最大限チームがどうしてほしいかということを考えながら、プレーしています。

Q:青木さんは04年にヤクルトに入団し、日本で8年、アメリカで6年、日本に復帰して6年プレーしてきました。20年を超えるプロ生活の中で、野球対する向き合い方、考え方に変化はありましたか?

アメリカに行ったのは、1つの転機かもしれないですね。野球観が大きく変わりました。それまでの自分は、私生活もそうですが、どちらかと言えば細かいことを気にしすぎて、プレーでもすごく切羽詰まった感じが出ていた気がします。アメリカに行ってから、向こうの環境、ファンの反応も影響したかもしれないですが、よりポジティブになれた気がしますね。

Q:入団2年目にはイチロー選手以来のシーズン200安打を達成し、首位打者も獲得しました。若くしてスター選手になった印象が強いのですが、「切羽詰まった感じ」というのは、具体的にどのようなものだったのですか?

元々、野球に対していつも疑問を持っているようなタイプでしたし、自分が受けてきた指導に対して、当たり前のことでも少し疑問に思うようなところがありました。「あれやっちゃダメ」「これやっちゃダメ」というのが自分の中で強く残ったり、外部からの声を意識したり、「打って当たり前」という期待が苦しかったというのもあります。ただ、そんな中でも結果は絶対残さなければダメだという気持ちではいたので、自分に鞭を打つじゃないですけど、こんなんじゃダメだという追い込み方をしていましたね。それはそれで良かったとは思うんですけど、結果は出ていても、迷いが常にありましたし、ポッカリ穴が開いているような感覚でしたね。

Q:そうした違和感を抱きながらも、素晴らしい「結果」を残し続けてきたわけです。青木さんは毎シーズンのようにバッティングフォームを細かく変えることでも知られていますが、現状に満足することなく、どのように次のステップを踏み出し続けてきたのですか?

野球の場合はそもそも打って3割の世界なので、考えたらキリがないですよね。でも、考えなかったら、多分相手がいることなので向こうも研究してきますし、当然ピッチャーも色々球種を覚えたり、今はすごく野球界自体のレベルが上がっていますから。もしそこで考えることをやめたら多分自分は置いていかれるし、当然今まで残せていた成績も残らないと思うので、自分の良いところ、悪いところをちゃんとわかった上で、ちょっとずつ変化を求めて行くというか、そういう形を意識していましたね。

Q:スポーツに限らず、現状に不安を感じていたり、結果を求めすぎてしまう人は少なくありません。壁に直面した時に、歩みを止めないためのアドバイスがあればお願いします。

探し続けるってことじゃないですかね。探し続けるって多分一番きついんですよね。答えがわからない状況で、ずっと問題を解いているような状況なので、いつゴールが来るかもわからないですよね。自分はその限界の先にまた限界があって、またその先ぐらいの限界、さらに、さらに先ぐらいに答えがあるような気がしているんです。「やっても、やってもなかなか答えが出ない」って諦めてると、多分一生答えが出ないような気がするし、野球界でもよくあるのがそれをまたメンタルのせいにしたりするケースです。「考えすぎだ」と言う人もいますが、僕はそれは逃げだと思っていて、プロなんだからちゃんと説明できるぐらい問題を突き詰めないと答えは出ないと、自分は思ってますけどね。

Q:すぐにメンタルに答えを求めてはいけないと?

同じことの繰り返しになるんですよ。「考えてダメでした、諦めます」って言ってメンタルのせいにして、「ちょっと考えすぎだな、リラックスしていこう」って。それでまた試合に臨んで打てなかったり、何か知らないけど打ったりもするんですよ。そうやって打てても、結局その打てた理由が分からないからまた同じようなサイクルで回ってくるんですよ。できない人のサイクルって多分ほとんどがそれだと思っていて、これは色々な人に当てはまると思うんですね。「もうダメなんですけど…」みたいな人って多いと思うんですが、その先なんだよなといつも思います。結局考えた先に答えがあって、答えを見つけないとまたその問題を解かなきゃいけなくなる。答えを初めに見つけちゃえば、次に進めるわけです。逆に言うと、打てている時も、それまでに準備ができているから打てているんですよ。調子が良かったり、ヒットのイメージしか出ない時もあるんですけど、当然それまでに必要なアプローチをしているから打てているんですよ。

Q:青木さんの話を聞いてると、「結果」「プロセス」を完全に分けることで、感情やメンタルが入り込む隙間をなくしているように感じます。

そうかもしれないですね。だから新しいことにもチャレンジできるんじゃないですか。結果が出て、例えば「インサイドのボールを良い感じで捌けた」と言っても、今の打ち方だったら、外に落ちるボールだと振りそうになるというのも1つの弱点ではあるわけです。僕は、その辺も潰したくなるというか、相手がまた次考えるであろうことを、前もって潰しておきたいんです。向こうが八方塞がりになったら、向こうが考えてくれるじゃないですか。そうなったらピッチャーの表情にも出ますからね。顔とか仕草とかでも何となく「今、こんな感じだな」っていうのは大体わかるので、そうなればもうこっちのもんですよね。面白いぐらいにわかりますから。

Q:「投げる」「打つ」の中に、そうした考え、駆け引きが繰り広げられているのですね。

僕はヒットを打たせてくれるのはピッチャーだと思っているので、ピッチャーを研究するんです。自分の打撃フォームは当然大事ですが、それを補うだけの考え方が必要だし、ピッチャーがその辺は教えてくれる。ピッチャーの投げ方から、表情から、投げてくる球種から全部ちゃんと頭に入れて打席に立つようにはしていますね。

Q:少し話しは変わりますが、野球界では、大谷翔平選手や佐々木朗希選手など青木さんの下の世代にも新たなスターが誕生しています。彼らの活躍をどのように見ていますか?

今の子たちはレベルが高いし、今の時代にプロ野球入らなくてよかったと思っています。テクノロジーの発達とそのデータ化、情報が選手の成長をどんどん上げています。もう少しして身体が壊れるかもしれないってなったら、身体が壊れないような何かがまたできるのかなとか。スピードは一昨年くらいから急に上がっていると思いますし、今は選手の身体も大きくなり、トレーニングも進化しています。投げ方や打ち方も科学的に、その人に合ったまたトレーニングができるようになっていて、努力の方向性がだんだん間違わなくなっているように思うんですよね。今までは聞いた教えを手当たり次第やっていたわけですから。

Q:そんな中で青木さんはどのように戦っていこうと考えているのですか?

色々な考え方はありますけど、一応時代の流れは読むようにはしています。今、野球界がどういう状況にあるのかというのは、何となく見えていて、自分もそういう風になっていかないとなという思いはありますし、同じやり方だとちょっときついかもなとも感じています。どちらかと言えば、僕はひと昔どころか、ふた昔前の選手で、今風に寄せようとはするけど、やっぱりそれには年齢的な問題もあるし、限界もありますから。だからこそ、ミックスさせていくというところだと思いますね。今のテクノロジーのものだけだと、「考える力」がなくなると思うんです。データを見て映像見て、それをするだけでは、発想力は伸びないですから。そこで戦っていく必要があるかなと感じていますね。

青木さんの「THE WORDWAY」。次回♯2は、青木さんがアメリカMLB時代の話を語ります。「価値感が変わった」と語る海外での生活は、人として、野球選手としてどのような気づきを与えたのか。客観的に自分自身と向き合うための「言葉」があります。

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PROFILE

◆青木宣親(あおき・のりちか)1982年1月5日、宮崎県生まれ。早大を経て03年のドラフト4巡目でヤクルトに入団。05年にプロ野球2人目のシーズン200安打を達成し新人王を獲得。首位打者3度、最多安打2度、盗塁王1度。12年にMLBのブルワーズと契約。アストロズ時代の17年に日米通算2000安打を達成。18年にヤクルト復帰し、23年8月に日米通算2700安打(日本1926本、米国774本)を達成した。08年北京五輪、06、09、17年WBC日本代表。

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