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Photo by Kondo Atsushi
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「成功をつかみとるためには、自分が求めるキャリアを分析し、戦略を立てていく」
近藤豪 #1
今回のアチーバーは、2021年3月に日本初上陸を果たした話題のラグジュアリーホテル「W 大阪」総支配人の近藤豪さんです。スイスのレ・ロッシュ大学で最高峰のホスピタリティ・マネジメントを学んだ近藤さんは、1997年にホテリエとしてのキャリアをスタート。2013年には副総支配人としてザ・リッツ・カールトン京都の開業を手掛けるなど、国内外のホテルの最前線で20年以上も活躍を続けてきました。2017年にはセント レジス ホテル大阪の総支配人に就任。卓越した手腕と、円滑な組織作りが評価され、今回のW大阪の重責が託されました。近藤さんがこだわる一流の「おもてなし」、「タレント」と呼ぶ従業員の育成法とは―。世界を肌で感じてきた「WORD」に、壁を乗り越えるヒントがあります。今回は全2回連載の1回目です。
Q:W大阪は、まもなく開業から2年を迎えます。世界的建築家・安藤忠雄氏がデザイン監修を務めた、ひと際目を引く黒を基調としたスタイリッシュな外観と、遊び心にあふれたインテリアで新たな大阪の〝主役〟になりつつありますが、手応えはいかがでしょうか?
「W」は進化していくブランドです。アメリカ内で進出した時は、現在とスタイルが違い、若者をターゲットにしていましたが、世界展開していく中でどんどんラグジュアリー化が進んでいきました。W大阪の337という客室数は、日本のラグジュアリーホテルのクラスでは最大規模。もちろん期待も感じていますし、さらに認知度を上げていけるように、新たなチャレンジを続けていきたいです。Q:「総支配人」と聞くと、そのホテルの一番偉い人という漠然としたイメージは沸くのですが、現在の「W大阪」のトップとしての仕事、その範囲や責任について教えていただけますか?
総支配人の仕事というのは、ホテルの運営、経営を任されていて、その全てに渡り管理することです。人事、経理部、オペレーション部門の料飲部のサービス、キッチン、宿泊、清掃、マーケティング、PR、営業などです。この全てをいかにバランスよく管理して、結果を残していくかというのが総支配人の仕事だと思っています。Q:多岐にわたるホテル業務のすべてに目を配る必要があるのですね。
その通りです。私は、総支配人として重要なことは、そのホテルをビジネスとしていかに独り立ちさせていくかだと思っています。まずは経営をきちっと運営して、お客様に向き合うことが仕事なのです。顧客の満足度を高めることが重要になってきます。お客様に満足して頂く鍵は、従業員です。私たちW大阪では従業員を「タレント」と呼んでいます。タレントがいかにハッピーに笑顔で働けるかが重要で、その管理に一番重きを置いています。更に、クオリティーが重要です。それらを通じて、私たちマリオット・インターナショナルにおいて、本社のステークホルダーに対して良い状況、結果を与えていくことが最終目的になってきます。Q:「ホテル=おもてなし」が重要だと思うのですが、長く最前線で活躍されてきた近藤さんが考える「おもてなし」に必要な要素とは何でしょうか?
1つしかないです。「おもてなし」と難しい言葉に括られますが、やはり自分が受けて嬉しいこと。それをサービスの立場から、どういう風に与えられるかを考えているかどうかです。考えていない人はサービスができてないですから。考えていてもお客様の意向と違う場合ももちろんありますが、一番重要なのはテクニックや小手先のものではなくて、想いだと思います。Q:相手を想うことがサービスの第一歩だと?
そう思います。例えば、お客様が家に来る時にはスリッパを用意しておき「こちらをお使いください」というのがおもてなしで、来る前に出しておくのが当たり前ですよね。来てから「あ、これを使ってください」というのは、おもてなしじゃないと思うのです。一歩先に何かをやっておくというのが重要です。お客様がエレベーターを上がって来られたら、アフタヌーンティーなのかチェックインなのかというのをその時点で見極められるのが、やはりおもてなしの1つなのだと思います。近藤さんのこれまでの歩みについて聞かせていただきたいのですが、スイスの大学でホテリエの基礎を学んだと聞きました。日本で生まれ育ち、高校卒業後に海外に出て、ホテル業界で生きていこうと思ったきっかけは何だったのですか?
元々は、インテリアデザイナーになろうと思ってニューヨークの大学を受けていたのですが、当時の世界情勢や私の両親から「そんなもので食べていけるのか」と反対された時に、インテリアデザインの道から方向転換しました。その頃、インテリアデザインの雑誌などを読んでいると、ホテルが掲載されていることが多かったのです。その時に「自分でビジネスをデザインできるもの」があれば楽しいだろうなと思い、ホテルでどういったビジネスができるかを調べて、ハイレベルなホテルマネージメントが学べるスイスの大学でその基礎を学ぼうと思ったんです。もちろんサービスもしたことないですし、バイトでキッチンの厨房で働いたことあるぐらいで、マーケティングの分野も知らない、人事も知らない、法律も知らない、経理も知らなかったので、大学で視野が広げて、どういう風な形で仕事をしていけばいいのかというのを学んでから、実際にこの業界に入ってきました。Q:大学卒業後の97年に入社したヒルトン・インターナショナルを皮切りに、活躍の場はアメリカ、日本、カタールのドーハ、オーストラリア、インドネシアのバリなど世界に広がっていきました。具体的に思い描いていたキャリアや目標はあったのですか?
ここが面白いところで、実は最初のゴールは「GMとしてスタート地点にどう立つか」ということを考えて、ホテルの世界に入りました。まだまだ20歳そこそこの時の考えでしたが、まずそのスタート地点に立つための「ゴール」、それが総支配人だったのです。そのために、学校を卒業して3年後にこのポジションになって、5年後に部長職になって、8年後に副総支配人レベルになって、10年後には総支配人になる。そこからどういった仕事ができるかだなと考えていました。Q:「総支配人」をスタート地点にして、そこに向けた過程の中に細かく目標を設定したと?
はい。ただ、業界に入って4年程経った時にそのプランからずれてきてしまって。そうすると10年で目標を達成できなくなるので、どうしたものかと考えて、今いるところを出ようと思いました。2000年頃にカタールのドーハでザ・リッツ・カールトンが開業して、そのオープニングスタッフにお誘いいただきました。ビバレッジマネージャーという料飲部を見る立場だったのですが、そこに受かってバーの運営を任されたので、そこからどんどんキャリアを縮めていこうと。その後もふたたび外に目を向けて、何かいいポジションがないかと探していたところ、前職のホテルブランドから声がかかって、料飲部の副部長でヒルトンの東京ベイに戻りました。Q:行動を起こすことで前進はしているものの、「10年で総支配人」との距離はなかなか縮まりません。焦る気持ちを抑えてチャンスを待つのは簡単ではないと思うのですが、近藤さんはどのように理想と現実のギャップを埋めていたのですか?
34歳で副総支配人になったのですが、なかなか次の総支配人になる順番が回ってこなくて。ヒルトンのアデレード、その後はザ・リッツ・カールトンの京都の開業、ザ・リッツ・カールトン大阪と10年近く副総支配人をやりました。自分が掲げたスタートラインになかなか辿り着けないのです。そこで「ゴール設定」を変えました。これを変えないと自分がやりたかったスタートラインに立つことはできないとやっと気付いて。Q:スタート地点だと思っていた場所を、ゴールに設定し直したということですか?
その通りです。副支配人をずっとやっていて「いつになったら総支配人をさせてくれるのだろう」って。もちろん、くれないんですよ。やはり自分から奪いにいかないといけない。その時にゴール設定を「この2、3年以内に総支配人になる」に変えたのです。そうしたらその直後に、バリにいた当時の副社長から「セント レジス ホテル 大阪で総支配人のポジションをやらないか」と。Q:スタートとゴール。1つの発想の転換が、新たな道につながったわけですが、目標を下方修正することに抵抗はなかったのですか?
自分が思っていることと実際の可能性とはどこかでギャップが生まれるので、そこを合わせていかないと、実際に自分が思い描いているゴールにはたどり着けないと思います。自分のゴール設定をしていった時に、例えば「10年後に総支配人になりたい」と言っていても、遅れが出た時にアジャストしていかないといけないわけです。私の場合、ゴールを総支配人と設定するのではなく、スタートラインを総支配人と設定したのが間違いでした。気付けただけマシですが、気付かなかったら今も副総支配人をやっていたと思います。Q:近藤さんが気づけたのはなぜだと思いますか?
1つの事にコミットするというのが重要で、「総支配人になれるだろう」という思い込みと「総支配人になろう」というコミットメントは全然違っています。やはりそこにコミットしてない人はできないと思うんです。コミットしたからこそ、周りにもその決意が伝わります。決意してない人には絶対にチャンスは巡って来ません。それが、自分のキャリアを通じて思っていることです。Q:総支配人となったセント レジス ホテル 大阪では、売上げのレコードを塗り替え続けたと聞きました。当時の経験から見えたもの、現状を打破できない人へのアドバイスがあればお願いします。
自分の中では、キャリアを分析していくことが、成功に繋がる鍵だと思っています。ビジョンを持ってキャリアを分析し、一例、二例と実例を上げていくことがやはり大事だと思います。私の場合は、大学時代にインターンシップをしたホテルにいたスイス人の総支配人が32、3歳でした。そのような実例があるから10年後という目標は可能だと。また当時の総支配人になる率を分析すると、レストランや料飲部門を出た人が早く総支配人になっていたのです。実際、私自身も24歳から仕事を始めて10年後の34歳で副総支配人になっているので、そのキャリアの分析の仕方は間違っていなかったなと思います。Q:ただ頑張るのではなく、市場や業界を分析し、勝率を少しでも上げていく努力が大事だということですか?
キャリアの話を聞いてくる若いスタッフには必ず「分析をしなさい」と言います。「今のトレンドはどうで、どのようなキャリアの人が、どの立ち位置で、いくつぐらいでそうなっているのか。というのも参考にしたほうがいい」と。がむしゃらに「こうなりたい、ああなりたい」というのは絶対に良くなくて、大体道半ばになるケースが多いので、きっちりと決める。 タイムスパンの平均は、実習生もしくは新入社員から次のステップのスーパーバイザーになるまでに大体5~6年かかるのですが、中には3年の人もいるわけですよね。その人に、どういったことを実践してきたのかを聞いてみればいいんです。自分でできる範囲で実際に戦略を立てて、タイムスパンを決めていくというのが分析の1つだと思っているので、それは大事にするように伝えています。近藤さんの「THE WORDWAY」。次回♯2は、近藤さんが結果を残す組織作りについて語ります。目標に向かって成長するために、10年以上、日々欠かさずに行っているマイルールとは。世界で闘い抜いてきた「言葉」の中に壁を乗り越えるヒントがあります。
THE WORDWAYでは、読者から、アチーバーの記事を読んだ感想を募集しています。記事を読んだ感想、「昨日の自分を超える」トリガーになったこと、アチーバーの方々に届けたい思いなど、お送りください。いただいたメッセージは、編集部から、アチーバーご本人に届けさせていただきます! アチーバーに声を届けるPROFILE
- ◆近藤豪(こんどう・ごう) 1973年1月26日、横浜生まれ。高校卒業後にホテルマネジメント、ホスピタリティ教育のトップスクールであるレ・ロッシュ大学(スイス)に入学。卒業した97年~99年までヒルトンインターナショナル・コーポレートマネージメントトレーニー。99年にヒルトン大阪レストラン統括支配人となり、01年からザ・リッツ・カールトンドーハ 飲料支配人を歴任。2013~16年までザ・リッツ・カールトン京都・大阪 副総支配人を務め、17年にセントレジス ホテル 大阪総支配人に就任。現在はW大阪総支配人を務めている。
HOW TO
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