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Photo by Kondo Atsushi
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「文句は誰でも言える。だからこそ、批判する側ではなく評価される人間でいたい」
五郎丸 歩 #2
今回のアチーバーは、ラグビー元日本代表で2021年に現役を引退した五郎丸歩さんです。五郎丸さんはスケールの大きなプレーで高校時代から注目され、早大時代には3度の大学選手権優勝に貢献。日本代表としても長くプレーし、2015年のW杯では歴史的勝利を挙げた南アフリカ戦でトライを決めるなど、チームの躍進を支えました。その後は海外リーグにも挑戦し、オーストラリア、フランスの強豪チームでもプレー。2021年シーズンを最後にピッチに別れを告げました。引退後は、所属していた静岡ブルーレヴズ(旧ヤマハ発動機ジュビロ)の「クラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)」に就任し、チケット販売の企画や、ファン・スポンサーとの連携など新たなフィールドで挑戦を続けています。日本のラグビーをけん引し、世界の扉を開いてきた五郎丸さんが壁を乗り越えるために大切にしてきたこととは。今回は3回連載の2回目です。
Q:今回は、現在の五郎丸さんについて伺っていきたいと思います。昨年6月に引退し、いろいろなオファーがあったと思うのですが、クラブ運営、「CRO」という仕事を次のフィールドに選んだ理由を教えて頂けますか?
いろんな選択肢がある中で、自分がお世話になったチームに恩返しをしたいという漠然とした思いがあって、そう考えていた時にちょうどラグビー界自体がプロ化に走ったんです。そこで、我々がどのチームよりも先に親会社から子会社化して、ラグビーを事業としてやっていくと。それと自分の引退が重なって、「これだったらチャレンジしたい」と。本社の中でラグビーをする部門、部署としてやっていくのであれば面白くないなと思っていたんですけど、組織のトップにも業界でプロとして実績がある人が来ると聞いて、「面白いな」と思いました。Q:日本バスケットボールリーグ専務理事などを務めた山谷拓志氏をクラブの社長に招聘し、その組織に五郎丸さんも合流する形で、新リーグ「リーグワン」初年度のスタートを切りました。
(山谷氏が)就任する少し前ぐらいに話をした時に「残ってくれないか」と言われて、いろんな話をする中で、「この人の下だったら何か面白いことできそうだな」という期待感しかなかったですね。チームが会社の中の一部門だったら、予算がついてそれを使い切って終わりなので、そこで収益を得ようという発想が出てこないですし、何かアクションを起こそうとしても、本社の中での承認が必要なんで、すごく時間がかかると思います。それが完全に子会社化されて、事業としてやっていくとなると、スピード感を持ってできますし、収益をしっかり求めてやっていかなくちゃいけない。JリーグやBリーグとか、いろんなところで活躍した人材も採用して、今新たにやっているという状況ですね。Q:五郎丸さんは具体的にどのような役割を求められているのですか?
この1年間はチケットの担当でした。チケットってやってみるとびっくりするほど専門性が高いんですよ。1からいろんなことを教えてもらいながら、チケットの売り方、スポンサーさんもいらっしゃる中で、一般に発売する分とスポンサーさん用の部分を管理したり。我々がやっているスタジアムは15,000席ぐらいあるので、その15,000席を埋める中で、席被りが起きないように埋めていく感じですね。Q:スター選手の五郎丸さんが、引退後もチームに残るという決断をしたことに、ファンからは多くの喜びの声が上がりました。クラブ運営には現役時代から興味を持っていたのですか?
一番最初に思ったのは、2015年のワールドカップが終わって日本に帰ってきた時に、ラグビーフィーバーが起きました。そのようなフィーバーって、僕は3歳からラグビーやってますけど、1回も経験したことがなかったんです。ラグビーの良さは自分の中ではすごく理解していましたし、「何で見に来てもらえないのかな」っていう疑問がずっとありました。それで、2015年に日本代表が結果を残して、国内リーグ(トップリーグ)チケットが完売したと。「やっと超満員の光景が国内で見れるんだな」と思って、会場に行くと(運営サイドの不手際もあって)空席だらけだったんです。そこがきっかけというのはありますね。だからこそ、チケット担当として今やらせてもらってますけど、結果を残した人や代表の選手たちに、今後そういう思いをさせてはいけないなと思っていますね。Q:ラグビー界への恩返しと、W杯後の苦い経験が、引退後の新たな挑戦心をかき立てたと?
そうですね。それと、批判する人間じゃなくて、批判される、評価される人間でありたいなって思ったのは、大きかったかもしれないですね。文句は誰でも言えるわけですよ。ただ、そんなこと言っていてもしょうがないなと。それだったら、ラグビーの運営の中に入って、良いも悪いも評価され続ける人間でありたいなという風に思ったのは大きかったかなとは思いますね。Q:引退は35歳の時でした。スター選手として重圧を背負い続けてきて、15年W杯以降はどのような思いで現役を続けていたのでしょうか?
22歳でプロになったので、とにかく35歳まではどんなに体が壊れようがやり続けたいと思っていたんです。29、30歳の年に、2015年のW杯を迎えて、やり切った感はすごく強かったですし、W杯前から「代表はこれが最後」というのは主要メンバーには伝えていました。ただ日本に帰ってきて、俗に言う「五郎丸フィーバー」みたいなことが起きたじゃないですか。だから(現役を)辞めるという選択肢はまずなかったのと、とは言え「代表をあと4年やるか」と言われたら、僕は意志が固い人間なんで、周りから何言われようと「代表はもう続けない」と。ただ、代表を続けないが故にできることもたくさんあるなと思って。例えば普及面もそうだし、メディアに出たりとかもそうですよね。2015年のW杯が終わった時の「ラグビーは個人にフォーカスするものじゃない」という思いは、言い続けなくちゃいけないなとも感じていましたし、4年間を通じて柔らかく伝えてきたいつもりではあります。2019年の時に「ワンチーム」っていう言葉が流行したように、いろんな選手たちが取り上げられて、外国人も日本人も関係なく、日本代表としてみんながフォーカスしてくれたっていうのは、僕自身すごく嬉しかったですね。Q:ラグビーというスポーツが持つ魅力についてもお聞きしたいのですが、「ワンチーム」という言葉に象徴されるように、多くのルーツを持つ選手が1つのチームとして戦うラグビーには「ダイバーシティ」の大きなヒントがあるように言われます。
講演などいろいろなところで話をするんですけど、「ワンチーム」という言葉が、一人歩きしちゃったなと思っていて。本当にいろんな会社でワンチーム、ワンチームって使い始めたじゃないですか。ただ、あれって上辺だけになってしまう可能性があるなと思っていて。2015年の時のメンバーもそうなんですけど、それまでの過程で、正面からお互いがぶつかってきて、最後の最後、極限状態でワンチームになったっていうだけなんですよね。だから、そこを無しにして、「ワンチーム」を広めたところで、何もならないとはずっと思っていましたね。Q:ベースの相互理解なくしては「ワンチーム」は成り立たないということですか?
そうですね。別にケンカをしろとは言わないですけど、お互いがきちんと自分の意思を相手に示すことによって、「あなたはそう考えているんだ、私はこう考えてるよ」みたいなぶつかり合い、ディスカッションをちゃんとやって、お互いが認め合える中で、それが組織としてなったときに初めてワンチームって言われるものになるだけであって。言葉の上で「ワンチームを目指しましょう」と言っても無理ですよね。 チームの方が簡単だったなと思います。ゴールが一緒ですから。例えば日本代表の一員としてやっていると、勝つことや何かの大会で優勝するっている目標って明確じゃないですか。だから、そこにみんなモチベーションを持って頑張れるし、基本的にはそのチームが好きで、自分のやっているスポーツが好きな集団なので、目標が進む方向が基本1つなんですよ。でも、一歩外に出て組織に属すると、そうじゃない人たちもいるなと。でも、そういう人たちが意外とバランスをとっていたりするんじゃないかなとこの1年で思ったんです。どんな状況でも「歩兵部隊で行きます」っていう人たちがフォーカスされて、置いてけぼりになっている人っているじゃないですか。でも、そういう人たちが、「歩兵部隊だけじゃやっていけないよ」っていうのを理解させてくれたりとか。がむしゃらに突き進むことだけが正しいことじゃないなっていうのは、すごく感じましたね。Q:ラグビーは、いろいろな特徴を持った選手が勝利という1つの目標に向かって自分の仕事を徹底するという面で、社会の組織づくりにもつながる部分があるように思います。運営側としての1年も踏まえ、現役時代の経験が社会で生きたと感じる部分はありますか?
Q:組織をマネジメントしていく上では、いろいろな考え方の人を全体の目標に向かって導かなければならないと思うのですが、どうすれば主体的に目標を共有できるのでしょうか?
そうですね。僕が組織をマネジメントするとかっていうのはまだ先のことでしょうけど、僕がずっと思っているのは、ビジネス界であれ、スポーツ界であれ、人間がやってるので、最終的にはコミュニケーションだと思っています。どれだけスキルが高くても、信頼感がなければ頼られないじゃないですか。それってもったいないなと思うんです。だから、コミュニケーションを取ることが一番大事だなと思いますね。Q:ラグビーは戦術理解や、試合中のコミュニケーションが非常に重要なスポーツです。仲間との意思疎通を深めていく上で、大切にしていることはありますか?
ラグビーをやっていた人のコミュニケーション能力が高かったりするのは、ピッチ上に立っている人間が15人対15人で、球技でおそらく一番多いんですよね。トライを取れる時って、その15人が自分の役割を全うして、正確にコミュニケーションが取れた時なんですよ。だから、日頃から常にコミュケーションを取っているっていうのは、ラグビーの非常に面白い部分なので、社会に出た時にも、人に自分の思いを伝えたりするのが得意な人間が多いんじゃないかなと思います。その上で、コミュニケーションが上手だなと思う人は、聞き上手だと思いますね。聞き上手の方が得をするんじゃないかなと思っていて。自分が考えてなかった意見がいっぱい出てくるわけじゃないですか。その意見を聞いて、自分の考えとをすり合わせて、またアップデートできるわけですよね。となると、聞き上手の方が得だなと感じますよね。Q:ピッチで大切にしていたコミュニケーションが、ビジネスの世界でも大切にしていかなければいけないと再認識したと?
物事の伝え方が、以前は、雰囲気が分かるので(10のうち)5とか6とかで良かったんですが、それでは分からないっていうのを、この1年間で痛感しましたね。1から10まで言っても、5伝わるかとか、6伝わるかとかだなと。価値観も違うし、もっと丁寧にやらないと、自分が伝えたいことは伝わらないですね。だから、人に共有することだったり、人を安心させる行動ってすごく大事なことだなとこの1年間ですごく思いましたね。Q:現在は、「スポーツビジネス」について早大大学院でも学ばれていると聞きました。
引退する前から決めていて、自分のセカンドキャリアがスタートするときに、自分の経験してきたことを、感覚的に伝えるんじゃなくて、しっかり学んだ上で人に伝えることによって、もっと深みが増してくるんじゃないかなっていう考えがあったんです。それに、今まではラグビー界だけで生きてきたので、他の業界の人たちってどう考えてるんだろうとか、まったく自分の領域とは違うとこに属してみたかったっていうのもありましたね。自分の業界とは違うところで活躍された方たちもいて、いろんな刺激をもらえていると感じています。Q:そのスポーツビジネスでの最初の表現方法が、まずはスタジアムをファンで埋めることだということですか?
そうですね。選手達のモチベーションって、やっぱりスタジアムにお客さんが入ってる光景だと思うんですよね。その選手たちが戦いやすい環境を、もっともっと作っていかなくちゃいけないなという風に思ってますね。五郎丸さんの「THE WORDWAY」。次回♯3は、五郎丸さんが緊張、不安との向き合い方、後悔しないための選択について語ります。楽しい人生を送るために五郎丸さんが実践していることとは。頭を軽くして一歩を踏み出すための「言葉」を見つけてください。
THE WORDWAYでは、読者から、アチーバーの記事を読んだ感想を募集しています。記事を読んだ感想、「昨日の自分を超える」トリガーになったこと、アチーバーの方々に届けたい思いなど、お送りください。いただいたメッセージは、編集部から、アチーバーご本人に届けさせていただきます! アチーバーに声を届けるPROFILE
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五郎丸 歩 (ごろうまる あゆむ)
静岡ブルーレヴズ クラブ・リレーションズ・オフィサー
1986年3月1日生まれ。福岡県福岡市出身
元ヤマハ発動機ジュビロのプロラグビープレーヤー、2021年度シーズンで現役を引退。
佐賀工業、早稲田大学を経て、2008年にヤマハ発動機ジュビロに入団、
ジャパンラグビートップリーグ13シーズンにおいて、得点王3回、ベストキッカー3回、ベスト15を5回受賞、ラグビートップリーグ通算最多得点(1282点)記録保持者。
2015年 第52回日本選手権大会においては、創部初の優勝に貢献した。
2005年、学生時代に日本代表に初選出、ラグビーワールドカップ2015イングランド大会に出場し、強豪南アフリカから歴史的勝利をあげると共に、大会ベスト15にも選出された。
日本代表キャップは57。
HOW TO
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五郎丸 歩 (ごろうまる あゆむ)
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