Photo by Kondo Atsushi

「どういう形なら役に立てるか、どうすれば機嫌良く仕事できるのかの両軸で考える」

髙田春奈 #1

今回のアチーバーは、公益財団法人日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)代表理事長(チェア)の髙田春奈さんです。髙田さんは、長崎県佐世保市出身で、国際基督教大卒業後にソニーに就職。人事を中心にキャリアをスタートさせると、2005年にはジャパネットの人事、コンサルティングを担う「ジャパネットソーシャルキャピタル」を設立しました。会社の経営と平行し、2008年には東京大学経済学部、2015年には同教育学部を卒業するなど、新たなフィールドへの挑戦も続けてきました。2020年にはサッカーJ2のV・ファーレン長崎の社長、2022年1月には公益財団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の理事に就任と、スポーツ界にも活躍の場を広げている髙田さん。「目標はなくてもいい」―。点と点をつなげるように切り開いてきたキャリアの裏側に宿る思いとは何なのか。その「WORD」に、未来を切り開くヒントがあります。今回は全3回連載の1回目です。

Q:2022年のJリーグ理事就任、同年9月のWEリーグのチェア就任は大きな話題となりました。現在の具体的な役割と、どのような思いで重責と向き合っているのかを教えてください。

Jリーグの中で私が責任を持っていたのは社会連携と「総務」「人事」といった組織開発の部分で、昨年始まったばっかりのWEリーグでは全体を構築していくというところです。規模感の差はありますが、WEリーグは小さいからこそ、それを発展、成長させていくことの意義を感じていますし、これからやるべきことがたくさんあるので、自分がどこまでやれるか分からないですがチャレンジしたいと思って、やらせていただくことにしました。

Q:髙田さんのキャリアを振り返ると、「スポーツ」とは遠い場所からのがスタートだったと思うのですが、サッカー界をリードしている現在の姿は、当時から想像できていたのでしょうか?

全く想定していなかったですね。元々スポーツを見るのはすごく好きで、中学の時にバルセロナオリンピック、高校を卒業した時にアトランタオリンピックがあって、どれだけ心を揺さぶられるか、悔しいことも含めて、どれだけ人の人生に潤いを与えているかというのを実感していたので、「好き」という気持ちはずっと変わりませんでした。ただ、自分がそこに仕事として関わることができるとは全く考えていなかったです。当時は今ほど「スポーツビジネス」という言葉もなかったので、スポーツはスポーツをやっている人たちのものであり、特別なものというイメージでした。自分がこういう形で関われるようになったのは「好き」というベクトルと、自分のキャリアがいつのまにか合わさっていた。好きという気持ちがあったから、結果的にそっちに向かってこられたのかなと思っています。

Q:髙田さんは大学卒業後にソニーに入社し、その後家業を手伝う形で経営の道へと進まれたと聞きました。どのようにキャリアを考え、どのような基準で道を選択してきたのですか?

私の軸は、生きている限りは社会に貢献したいという思いです。就職活動をしていて、最終的にたまたまソニーに入ったのですが、ソニーという企業が「社会貢献」ということをすごく考えている会社だったので、そういった軸を持った会社にいれば、自分も社会に貢献する仕事ができるのではないかと思って選択しました。

Q:「どんな仕事」ではなく「社会貢献につながる仕事」が第一だったということですか?

そうですね。長崎出身で原爆の被害に遭った地域にいて、平和な世界を作っていくことに貢献したいという思いが子供の頃からずっとあったので、仕事をするのも、お金を稼ぐとかではなく、社会に貢献したかった。「また核爆弾が落ちたらどうしよう」と小学生の頃からずっと思っていて、戦争をなくしたいと考えた時に、海外に行くとか国連に入るとかいろいろな方法があると思うのですが、私はどうやったら人と人が憎みあわずに幸せに共存できるのかを考えるのが好きだったので、戦争を止める方法より、人が仲良くなる方法をずっと考えて、大学でもそういった倫理とか哲学とかを学んでいました。

Q:幼少期に抱いた「平和への願い」が、髙田さんにとって働くことの意味、目的だったと?

その通りです。(2005年から)父の会社を手伝うようになったのも、正直家業をやるつもりは一切なかったのですが、父自身も物を売ることによって人の生活を豊かにしたいとか、人の生活に感動を与えたいという思いでやっていたので、そういう姿を見ていた時に、その会社が成長するのを支えることが社会の役に立つことなのではないかと思って、一緒にやろうと思いました。

Q:2020年にはお父さんの後任として、V・ファーレン長崎の社長に就任されました。社会の役に立ちたいという思いの先に、好きだったスポーツとの出会いがあったということですか?

私はバレーボールがすごく好きで、国際大会とかを見てたんですけど、アメリカとかロシアがすごく強かったり、戦争をしているチーム同士が試合をしたり、そういうことがスポーツだと普通にできるんですよね。たぶんこの人たちは憎しみとかない状態でやってるしというのも、やはりスポーツの力ってすごいなと思っていたのはありました。その中で自分の価値観、判断の軸は変わらなかったので、たまたまスポーツクラブの経営っていうところが選択肢の中に入ってきて、もともとスポーツが「好き」だった、スポーツを通して人々を幸せにするということに参加できるんじゃないかと思えたのは、幸運だったと思いますし、ある意味必然でもあったのかなと思います。

Q:自分の好きなことと仕事やキャリアを結びつけたいと考える人は少なくありません。スポーツへの愛情と、キャリアのベクトルが結果的に合致したということですが、経験を振り返ったときに、どのような姿勢や考え方がそのチャンスを引き寄せたと感じますか?

私は、仕事とはいえ、自分が前向きに取り組めることじゃないと絶対に成果は出せないと考えています。そして、それ以前に自分が役に立てなかったら意味がないと思っています。だから、自分がどういう形だったら役に立てるのか、自分がどうやったら機嫌良く仕事ができるのかを常に両軸で考えるようにしています。

Q:成長するためには、常にその2つの視点から自分を見る必要があると?

そうですね。ただ好きなだけで、自分が役に立ててないことに無自覚だと、それは結果的には良い結果は出せないと思っているので、好きなものに携わる姿勢は大事にしたいですが、自分が役に立てているかということを、常に俯瞰でも見ておくことも重要だと思いますね。

Q:もう一方の、「機嫌良く働く」ことの大切さを感じたのは、何かきっかけがあったのですか?

ずっと仕事をしていて、比較的うまくいってて、それ以上に「こうしたい」とか「こういう風 になりたい」といった大きな目標がなく、だけど、ものすごく幸せかと言うと、何か不安がある。日本全体もこれだけ豊かなのに、なぜこんなに不幸な人とか苦しいと思っている人がいるのだろうと思った時に「教育」を学んで、「お金を稼ぐとか名声を得るとかではない喜びって何か」というのをそこで教えてもらいました。。それは、今のスポーツにも繋がっているんですが、人と人との触れ合いの中で生まれる心の揺さ振られとか、彼らの頑張りを認めてその涙に心揺さぶられることとか、そういう価値ってお金では作れないじゃないですか。W杯があれだけ華やかな舞台を用意しても、あのストーリーは人工的には作れない。そういうことが本当は人の生きている意味だし幸せなんだなと気づけた時に、すごくホッとしたというか、この世界に対して諦めなくて良かったなと思えたんです。

Q:そうした居心地の良さを感じるためには、どういったアプローチが必要でしょうか?

どういう環境の中にいる時が、一番自分が自分らしくいられるのかっていうことを常に意識しておくことが大事だと思います。今は、外部の評価が簡単に入ってきてしまう時代なので、私自身もこんなふうに言っていても、自分の発言に対して、こうじゃない、ああじゃないかとSNSで言われたりすると、揺らいでしまったりすることもあります。その時に「今自分が不機嫌だな」とか、「今すごく居心地がいいな」ということに気付いたりするのですが、その違いが実はこの世の中にはたくさんあるということに意識的になっていれば、必ずしも辛いことばかりではないと思います。私自身が、居心地よく生きてきたというのは、ずっと楽に生きてきたのではなく、自分の迷いの中で、例えば新しく勉強して「こういう目線があるな」というのを知ることで、居心地がいい道に変わることを繰り返してきたからだと思っています。

髙田さんの「THE WORDWAY」。次回♯2は、髙田さんが現状に満足せずに新たなフィールドを開拓し続けてきた思いを語ります。「夢がなくてもいい」の言葉の真意とは―。昨日の壁を越えるための「言葉」があります。

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PROFILE

◆髙田春奈(たかた・はるな)1977年(昭52)5月17日、長崎・佐世保市生まれ。国際基督教大を卒業後、ソニー(株)で4年半勤務し「(株)ジャパネットソーシャルキャピタル」」を設立。2008年に東京大学経済学部、2015年に東京大学教育学部を卒業。2020年1月にJ 2V・ファーレン長崎の社長に就任し、2022年3月にJリーグ理事に就任(現在は特任理事)。2022年9月に、公益社団法人日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)の第2代理事長(チェア)就任が発表された。

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