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Photo by Kondo Atsushi
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「こだわりを通して仕事にしたいのなら、人の倍やらないと成立しない」
梅原大吾 #3
今回のアチーバーは、「世界でもっとも長く賞金を稼いでいるプロゲーマー」などのギネス記録を持つ、世界的eスポーツプレイヤーの梅原大吾さんです。小学生の時に格闘ゲーム「ストリートファイターⅡ」と出会った梅原さんは、毎日ゲームセンターで腕を磨き、15歳で日本大会優勝、17歳で世界大会優勝を果たすなど、若くして注目を集めました。23歳の時に一度はゲームの世界から離れ介護の職に就くも、2009年世界大会で優勝し電撃復帰。10年にアメリカの企業とスポンサー契約を結び、「日本初のプロゲーマー」となりました。幼少期から、ゲームに対する世間の逆境に抗しながら、「好き」を貫き続け、40歳となった現在も世界のトップとして活躍を続ける梅原さん。ゲーム業界の先駆者が、好きなことを仕事として生きる難しさ、プロとしてのこだわりを語ります。今回は全3回連載の3回目です。
Q:好きなことを仕事にしたいと思っている人は少なくありませんが、実際に仕事となると、「好き」だけでは進めなくなるものです。梅原さんは、「ゲームが好きだ」という思いを貫きながら歩んでこられたのはなぜだと思いますか?
好きなことを仕事にすると、好きだけじゃなくなると思いますが、じゃあこだわらないのかって言うと、そうじゃない。めちゃくちゃこだわるんですよ。「仕事なのにこだわりを入れていいの?」と思うでしょうが、とことんこだわって練習するんです。「これだけ練習したら、こだわっても許されるな」というレベルまで持っていくんですよね。だから、その2つを両立させたくて、ギリギリのバランスを自分としては取っているつもりです。これ以上、こだわりを入れすぎるともう競技の世界じゃないよね、でも効率の方に振っちゃうと、もう梅原じゃないよね、となってしまう。そのギリギリのところは、自分でも良いバランス感覚なんじゃないかなと思っていますね。Q:「勝つ」「負ける」の結果だけでなく、自分が好きでいられる余白を残すことが大事だと?
勝つためだけに最適を目指して効率よくやってる人たちもいますが、「ウメハラじゃないと見せてくれない」と言ってもらえる自分だけのプレーを大事にしています。プロゲーマーも、どこかアスリートみたいな感じで扱われていますが、そうではなくて、ゲームを通してびっくりさせたいとか、僕も頑張ろう、と思ってもらいたいとか、そういう気持ちが強いんです。それを消そうと思っても消せないんですよ。だから、それが通用する限りは、ギリギリのところで「みんなこういうの見たいよね」っていうのをやりたいんですよ。Q:ファンや、観客の目も意識してプレーしているのですね。
なぜそういう気持ちがあるかと言うと、僕はこの仕事を丸13年やっていますが、やっぱりどこまでいってもゲームが危ういものだと思っているからです。元々、こんなものやってちゃダメだというところから入っている。11歳の時に「ストリートファイターⅡ」が発売されて、爆発的なヒット、ブームになったものの、そこからずっと落ちていったジャンルなんですよね。そのジャンルにずっとしがみついてた人間で、そういう時代に、もし自分が勝つためだけのプレーなんていうものをしようもんなら、対戦相手がいなくなって終わりなんですよ。「今は、そうじゃない」って言えばそうはそうですが、結局見ている人たちに愛想つかされたら終わりだと思うんです。だから、勝つのも大事だけど、一方で見てる人がしらけたら終わる、ということを現実のものとして受け止めているんですよね。それは他の人には強要はしませんが、僕はこの世界がしぼんでしまうこと、盛り上がらなくなってしまうことだけは嫌なので、「退屈してるんだったら、じゃあ俺のプレー見ろよ」と自負して取り組んでいます。Q:「好き」を仕事にするには、「こだわり」「結果」のバランスを自分で保つ必要があるということですか?
そう思います。僕は、こだわりたいという気持ちが強くあるので、結果どうなるかというと練習時間がとんでもなく増えるんです。自分が一番練習していると言えるくらい練習している。こだわりを通すために、「こんなに練習しなきゃいけないか」っていうぐらい練習しなくてはいけない。でも、それをしなくなったらもう仕事じゃないし、趣味でやっていればいい。だから、そういうこだわりを通して仕事にしたいんだったら、人の倍、大げさじゃなく多分倍ぐらいやらないと、成立しないだろうと思います。Q:「好き」なことと「得意」なことが梅原さんのように一緒の人もいれば、そうでない人もいます。ご自身の歩みを振り返って、好きと得意の違いについて、感じることはありますか?
多分、僕はゲームの特別な才能なんてなかったと思うんですよ。ただ、その練習量が膨大だったんで、結果として勝てていましたが、それからすると子供の時、運動は同級生よりもできたんですよ。足が速かったりとか、力が強かったりとか。あと、話すのが結構得意で、クラスの中心になったりとか。そういった、わかりやすい長所があったんですけど、そっちを伸ばそうとか、そっちの道で生きて行こうって気にはなぜかなれなかったんですよね。大きかったのは、父親に「何でもいいから1つ人に負けないものを持て」と子供のときからずっと言われていたことですね。「それはお前が選んでいい」「好きなものを見つけたら、とことんやれ」ということをずっと言われて、それが頭の中にあったので、子供心に「それってちょっとやそっとの得意だったら無理だよな」と思っていたんですよね。だから、運動ができるといったって、子供の時にカール・ルイスを見て「こんなの無理じゃん」って、マイク・タイソンを見て「無理じゃん」って。要はそれでもなんとか食らいついてやるって言うのは本当に好きだということだと思うんですよね。得意ぐらいだとそれで終わりなんですよ。走るのが早かった、力が強かった、でもすごい人を見て「うわ、これは無理だ」というのは所詮得意止まりなんですよ。Q:心底好きでないと勝負にならないと?
才能じゃなくて死ぬほど好きだったり、これより好きな事はないっていうものだと、他は関係ないんですよね。「別に勝てなくたっていい」っていう気持ちにもなるし、「自分がどこまで行けるか知りたい」がゴールになるんですよ。だからこそ、父親の教えを守る上では、強烈に好きなものじゃなかったら、強敵とか圧倒的な存在が現れた時に対抗できない、食らいつけないと思いました。Q:梅原さん自身も、ゲームで人生を切り開けるとは思っていなかったということですか?
ゲームをやり続けた先に何かあるという確信はまったくありませんでした。あったら辞めなかったでしょう。 挫折もしたのも確信がなかったからです。ただ、自分としては父親の言う「何か1つ得意なもの持て」という教えと、「好きなことを見つけろ」という教えの断片的なものを組み合わせて、ゲームに打ち込んでたのかなと思います。だけど、これが将来自分のためになるとはやっぱり思えなかったですね。どこかで奇跡が起きて、誰かが自分を見つけてくれたらラッキー、でもそれはポジティブな思考というより、「もう後戻り効かないから、誰か何とかしてくれ」、そういう叫びに近かった。当時は、やり直せるんだったらやり直したいと思ったくらいでしたから。好きで好きでやってきたけど、20歳の自分に「小学校の高学年ぐらいからやり直せるけど、どうする?」って聞いたら、「ありがとう、やり直させてください」って言うと思いますね。Q:ビジネスの世界でも、自分がやりたいことに反して周囲の賛同が得られないというケースは少なくありません。梅原さんは多くの逆境を乗り越えてこられていますが、うまくいかない時の対処の仕方について、どのように考えていますか?
僕の場合は、信念があったというよりは、ただ好きだった、というのに尽きます。ゲームが好き、でも世間はよく見てくれない。結果、どうしたかって言うとコソコソやってたんですよ。まあ、ゲリラ活動ですよね。ゲーセンに行くところは友達にも見られたくないし、親にもわざわざ「ゲーセン行ってくるね」とは言わなかったし。バイト先では「梅原さんって普段何してるんですか」って聞かれたら「映画見てます」って言ったり。だから、好きな事だったから続けてはいたんだけど、堂々とやっていたわけではないんですよね。僕の勝手な言い分ですが、もし、これが好きだと思えることを、コソコソやってもいいんじゃないかなと思うんですよ。うまくいっていない時から、大っぴらにやる必要ない。反対されて、わざわざその批判の声とか、否定されるような環境に身を置く必要はないんじゃないかなと思いますね。Q:実現するまでの過程で妨害されないような環境を作ることが大事だと?
準備期間とか、練習してる最中というのは、やいのやいの言うわけですよ。だから、練習していることは内緒にして、お披露目してもいいだけの実力になった時にバーッと出してもいいんじゃないでしょうか。そういう人からの批判に耐えるのにも限界があると思うから、無理にそこで負荷をかけすぎないっていうかね。ただ、否定されたからやめちゃうのではちょっともったいないと思いますよね。否定された、批判されたから辞めちゃう。じゃなくて、その人の目に映らないところで虎視眈々とやればいいんですよ。Q:貴重なお話をありがとうございました。最後に、このTHE WORDWAYは「壁を乗り越え続ける大人を増やす」というテーマを持ったメディアです。好きなことがあっても今の仕事や環境からなかなか勇気が持てなかったり、色んな理由で一歩を踏み出せない人がいると思うのですが、梅原さんからアドバイスをお願いします。
2つあります。1つは、努力する人間がこの世にいる以上、変わらないと追い抜かれるということです。僕だって本当は休んでいたいんですけど、自分が努力しないと、他の人に追い抜かれちゃう。だから、安定でいられるかもしれないけれど、意外とそこは安全じゃないのが現実です。安定だと思っている立場を、周りはその立場を取って代わろう、もしくはもっと先に行こうと思うわけですから。だから、多少怖くても、そもそも挑戦しないと落ちていくのは免れないんですよ。それがまず1つです。 それからもう1つ。なぜみんなチャレンジを敬遠するかというと、失敗した時に周りから馬鹿にされるとか、生活が苦しくなるとか、とにかく色んな不都合があると思うんですが、何度も例えに出していますが、この(コントローラーの)レバーレスに変えた時に、最初はみんな言ってきたわけですよ。「成績落ちてるのを見てるの嫌だよ」「早く戻しなよ」と。でも、自分は「今に見とけよ」と思っていたんですよね。それでも、誰もが認める成果を出し始めた時に、「それみたことか」とは思わなかったんですよ。「よし自分良くやった」と思ったんですよ。結局、自分で自分を褒める、またいっそう好きになる、「やっぱお前は信用できる男だぜ」という感じ。自分がそう思えることが何よりも大きな収穫なんですよね。Q:自分にベクトルを向け続けることが、壁を乗り越える力に変わるということですね。
わざわざきつい思いをして挑戦することで、年々自分を好きになっている実感があります。目先の成果とか、失敗した、成功したということではなくて、「俺はチャレンジした」、「その俺はえらい」「かっこいい」って。別に失敗してもいいと思うんですよ。僕自身、失敗したことも何度もある。たまたまうまくいった例を出していますが、失敗した場合でも「何もチャレンジしなかった奴らがガタガタ騒ぐんじゃねえ」ってどこかで思ってますから。「それにひきかえ、俺は良くやった」って、ちょっと変換できると、挑戦するのが怖くなくなる。むしろ楽しみだし、挑戦することを見つけられるとワクワクするような、そういう体質というか、そういう風になるんじゃないかなと思います。THE WORDWAYでは、読者から、アチーバーの記事を読んだ感想を募集しています。記事を読んだ感想、「昨日の自分を超える」トリガーになったこと、アチーバーの方々に届けたい思いなど、お送りください。いただいたメッセージは、編集部から、アチーバーご本人に届けさせていただきます! アチーバーに声を届けるPROFILE
- ◆梅原大吾(うめはら・だいご) 1981年、青森県出身。11歳で格闘ゲーム「ストリートファイターⅡ」に出会い、15歳で日本一、17歳で世界一に輝く。23歳の時にゲーム界に別れを告げて介護職などに就くが、2008年に電撃復帰。2010年米国企業と契約を結び、日本人初のプロゲーマーとなる。同年8月「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマー」としてギネスブックに認定され、現在は3つのギネス記録を持つ。プロゲーマーの世界的第一人者であり、海外では「ビースト(Beast)」の異名を取る。
HOW TO
THE WORDWAYは、アチーバーの声を、文字と音声で届ける新しいスタイルのマガジンです。インタビュー記事の中にある「(スピーカーマーク)」をクリック/タップすることで、アチーバーが自身の声で紡いだ言葉を聞くことができます。 CATEGORY
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