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Photo by Kondo Atsushi
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「どうせ立ち向かうなら、楽しく立ち向かう。筋トレと同じで、つらい環境が筋肉になる」
楠本修二郎 #3
今回のアチーバーは、「WIRED CAFE」「Planet3rd」などを展開し、日本に新たなカフェ・シーンを作り上げたカフェ・カンパニー株式会社代表の楠本修二郎さんです。楠本さんは、リクルートコスモス、大前研一事務所を経て、2001年にカフェ・カンパニーを設立。「コミュニティの創造」をテーマに、国内外約90店舗の企画・運営を行っています。また、一次生産者をはじめ食産業に携わる方々をサポートし、日本の食産業の発展を支える基盤づくりと世界の課題解決への貢献を目指すZEROCO株式会社を2023年に始動させ、その他にも、東日本の食の復興を目的とした「東の食の会」や「おいしい」を軸に持続可能な未来への貢献を目指す「おいしい未来研究所」 の代表理事を務めるなど、「食」と「カルチャー」の仕掛け人として、世界、次世代へとメッセ―ジを発信し続けています。挑戦を支えてきた経営哲学、変化をエネルギーに変えるメンタリティーとは―。今回は全3回連載の3回目です。
Q:楠本さんは、アイデアのことを「いたずらを作る」と表現されているのが印象的です。仕事をする上での考え方だと思うのですが、周りを楽しませることを楽しむようになったのは、いつ頃からですか?
基本的に博多もんのミーハーっていうのがベースにあるのだと思うのですが(笑)、それだけだと、楽しい時はいいけど、苦しい時に「パコン」と折られて「シューッ」となるわけです。新卒で勤めた会社ではいろいろ経験させてもらいました。入社後に広報室へ配属され、1年目の途中から社長秘書を担当して役員の方々とも接点が多かったのですが、その方々の組織を守る強さとやさしさ、反面、時として正義を通すための理不尽さみたいなものもありました。でも、その1つ1つをネガティブに考えていたら生き残れない。毎日がゲームの1面をクリアするような感じで「よし、今日も1面クリアできた!でも、また明日も一気に敵が来るぞ」と。歴史で考えてみると、我々人類は過去ずっとこのような状況に直面し続けてるんだよな・・・というようなことを社会人になって学んだんですよ。Q:壁を乗り越え続けるためには、その状況を楽しむ余裕が必要だと?
ピンチになればなるほど人はアドレナリンが出ると思うんです。 だから、戦うべきときは思いっきり戦い、「どうせ立ち向かうんだったら楽しくやろう、このゲームをクリアしよう」という後付けのトレーニングですよね。でもそういうことって人生にみんなあるはずで、それは筋トレと一緒で筋肉になるはずだから、ネガティブに考えない方がいい。辛い環境にならないと筋トレなんかできないですから。Q:悲観しなくても、歩みを止めなければ成長できるということですね。
そう思います。例えば、1543年に種子島へ鉄砲が伝来しました。歴史の授業ではその事実だけを学んでいると思いますが、そこからわずか30、40年後に、長篠の戦いで織田信長は鉄砲で武田軍を打ち破ったんです。あの時代、世界最大の鉄砲生産国は日本になったと言われているんです。一説によると、各国列強が日本を占領しなかったのはこれがディフェンスになったとも言われてるんですね。何が言いたいかというと、戦国時代に向かう1500年代っていうのはものすごくピンチだったはずです。明治維新でも、第二次大戦後でも、ものすごくピンチだったはず。つまり、過去においてはそのピンチが可視化されやすかったから、日本人の一致団結が図れた。これは、ものすごくポジティブなことだと思うんです。今のピンチは少子高齢化、そしてその社会システムを適合化する新しいビジョンがあまり伝わってこないことだと思うんです。だから、みんなピンチなのかもよくわからないまま、なんとなく萎縮している。でも「このまま現状維持をしていたら何とかなるかな」という感じになっていることが、僕は大変なピンチだと思うんです。だから、現状を可視化して「これから先こうなるよ」「これはピンチだね」「ピンチだということはこっちに行けば良いってこと?」と積極的に議論ができたら、ピンチは大きなチャンスになるわけです。行動変容というのは個々に宿るものですが、実は全体のムーブメントのようにそれを喚起して行動変容を促すビジョンとストラテジーが必要だと思うんです。その機会が現代は少ない。1500年代の時のように、鉄砲がきたら「これを作るのか、それとも打たれるのか、それとも逃げるのか、お前はどっちだ」ってなるじゃないですか。Q:楠本さんが社会全体の流れを変えようとするのも、事業を拡げているのも、結局は「楽しむ」というスタンスが根底にあるのですね。
「楽しむ」ということは好奇心じゃないですか。だって、変えた方が楽しくなりそうであれば、変えたいですよね。「楽しい未来」という風景を見たいだけで、あんまり難しいことは考えてないんですよ。何だって楽しい企画に変えたら「ピンチもチャンスになるんじゃね?」っていうことを思い続けてるだけの話です。Q:若い頃はそうした挑戦心を持っていても、組織内でのポジションが変わったり、家庭を持ったことでだんだん保守的になってしまうという人は少なくありません。楠本さんのように、ポジティブに居続けられるコツ、アドバイスがあれば教えて頂きたいのですが。
大前(研一)さんの「人間が変わる方法は3つしかない。1番目は時間配分を変える。2番目は住む場所を変える。3番目はつきあう人を変える」という言葉もあります。それは、家庭を捨ててまで別の人と会えという話ではなくて、ちょっとコミュニティを増やしてみるとか、普段自分が触れないニュースネットワークを探るとかでいいと思うんです。僕の場合は仕事にかこつけて旅に出て、その旅に出た時はリラックスしながらもアンテナを張り巡らせています。普遍的なものはなんだろうとか、「あぁ、このデザインは30年前と変わってない、ということはこのコンテクストがこうなってるんだな」みたいに、街の中や人の会話の中に何か文脈を探るようにしていますね。Q:貴重なお話をありがとうございます。最後に、THE WORDWAYは言葉を大事にしているメディアです。楠本さんが自分の人生を動かした言葉、転機になった言葉があれば教えてください。
たくさんありますが、パソナの南部さんから教えてもらった「燕雀(えんじゃく)安(いずく)んぞ鴻鵠(こうこく)の志を知らんや」という言葉です。僕にも苦しんでいた時があって、そんな時にランチに誘ってくれて何でもないバカ話を1時間した後に、「楠本くん、これ」ってさっと書いて渡してくれたのが、この言葉だったんです。これは、世界初の農民反乱と言われている「陳勝・呉広の乱」の際に陳勝さんが言った言葉だとされています。陳勝さんと呉広さんは、秦の始皇帝の圧政に耐えられなくて農民反乱を起こした。結果、陳勝・呉広は討ち死にしましたが、革命が起きたということなんです。「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」という言葉の意味は、スズメやツバメが大きな翼を持っている鴻の志は分からないだろという言葉です。鴻は高いところ飛んでいるから、山の向こう、つまりビジョンが見えてると。それだけを聞くと、「少年よ、大志を抱け」っていう言葉だと捉えられると思いますが、これは農民である、陳勝さんが言っている言葉なんです。だから僕は勝手に、田んぼの目線でずっと生きて作業していた我々がこの先を目指そうと頑張っている言葉だと受け取ったんです。Q:鴻鵠になろうとするのではなく、鴻鵠の志を知ろうとすることが大事だということですね。
我々1人1人の生活者であっても、鴻鵠の志も持てた方がいい。「鴻鵠の志は政治家の仕事でしょ」とか、「俺は日々の仕事だからそんな関係ないもん」ではないし、逆に、鴻鵠の志を持っている人は燕や雀のようにヒューマンスケールの目線でちゃんと社会を見なきゃいけない。どっちも自分事化した方が「楽しい」と思うんですよね。THE WORDWAYでは、読者から、アチーバーの記事を読んだ感想を募集しています。記事を読んだ感想、「昨日の自分を超える」トリガーになったこと、アチーバーの方々に届けたい思いなど、お送りください。いただいたメッセージは、編集部から、アチーバーご本人に届けさせていただきます! アチーバーに声を届けるPROFILE
- ◆楠本修二郎 1962年6月8日福岡県生まれ。 早稲田大学政治経済学部に進学し、大学在学中にイベント企画運営やプロモーション事業、店舗企画や出版などに携わる。卒業後、株式会社リクルートコスモス(現・株式会社コスモスイニシア)、大前研一事務所を経て、1999年「WIRED CAFE」1号店をオープンさせ、2001年にカフェ・カンパニー株式会社を設立。2011年6月、東日本の食の復興と創造の促進及び日本の食文化の世界への発信を目的として発足した一般社団法人「東の食の会」代表理事に。飲食事業の他、地域活性化事業、商業施設のプロデュースなどを幅広く展開している。
HOW TO
THE WORDWAYは、アチーバーの声を、文字と音声で届ける新しいスタイルのマガジンです。インタビュー記事の中にある「(スピーカーマーク)」をクリック/タップすることで、アチーバーが自身の声で紡いだ言葉を聞くことができます。 CATEGORY
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