Photo by Kondo Atsushi

「誰かに背中を押されて失敗すると、人のせいにする。だから、物事は絶対に自分で決める」

五郎丸 歩 #3

今回のアチーバーは、ラグビー元日本代表で2021年に現役を引退した五郎丸歩さんです。五郎丸さんはスケールの大きなプレーで高校時代から注目され、早大時代には3度の大学選手権優勝に貢献。日本代表としても長くプレーし、2015年のW杯では歴史的勝利を挙げた南アフリカ戦でトライを決めるなど、チームの躍進を支えました。その後は海外リーグにも挑戦し、オーストラリア、フランスの強豪チームでもプレー。2021年シーズンを最後にピッチに別れを告げました。引退後は、所属していた静岡ブルーレヴズ(旧ヤマハ発動機ジュビロ)の「クラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)」に就任し、チケット販売の企画や、ファン・スポンサーとの連携など新たなフィールドで挑戦を続けています。日本のラグビーをけん引し、世界の扉を開いてきた五郎丸さんが壁を乗り越えるために大切にしてきたこととは。今回は3回連載の3回目です。

Q:スポーツの世界だけでなく、感情をコントロールするというのはすごく重要なテーマだと感じます。五郎丸さんは、数万人が見つめる大舞台や、誰もが緊張する極限の場面でプレーしてきたと思うのですが、どのようにメンタルをコントロールしてきたのですか?

それは、キックを通じてなんですが、自分にコントロールできるものとできないものがあるっていうのを、すごく学んだんですよね。コントロールできるものいえば、ボールの立て方とか、歩数だとかっていうのは全部コントロールできますよね。コントロールできないのは、天候とかお客さんの数とかですね。そのコントロールできないところに、俗にいうプレッシャーっていうものを感じても何も変わらないよと。それだったら、自分がコントロールできることにフォーカスすれば、あとはキックが外れようが、入ろうが良くない?ってことです。

Q:コントロールできることだけにフォーカスすると?

もちろんそこまでの努力はいりますよ。そこまでの努力はいるけど、本番で仮に外したとしても、後悔はないと思うんですよ。後悔してるっていうのは、おそらくその準備段階で何かをやらなかったことに対して後悔のなので、ちゃんとそのプロセスを踏んで、準備してきた人間って、おそらく後悔しないんですよ。振り返った時に高校2年生の時の自分がやったプレーとか(注:第1話参照)、あの1日を後悔してるのは、それまでの準備を今考えるとできてなかったなっていう思いが強いから、未だに「あの時やっておけばよかったな」って思うんですよね。コントロールできないところに労力かけるほどもったいない時間はないなと思うんです。それだったら自分がコントロールできるエリアを100%やることが、一番の近道だなと思いますね。

Q:ビジネスの世界でもこれまでにない選択をしたり、新たな一歩を踏み出す際に不安を感じるケースは少なくありません。日本での安定を捨てて海外リーグに挑戦したりする中で、恐れを感じたことはありますか?

全くないです。オーストラリア行くときも、フランスに行くときも、全く不安はなかったですね。

Q:それは、なぜですか?

一自分で決めたからです。自分で行くっていう意思を示して、オーストラリアもフランスも行ったし、今の(クラブ)運営にも来たんで。誰かに背中を押されたわけじゃないですよね。そこは大きいかもしれないですね。背中を押されてやって失敗すると、絶対に人のせいにすると思ってるんです。でも、自分で決めてやったことに関しては、後悔じゃなくて、次に改善してどうしようみたいな、ポジティブなマインドになると思うんですよ。前者にはなりたくないんで、とにかく自分で物事は決断するんです。それが、間違っていようが、合っていようがあんまり関係ないですね。

Q:THE WORD WAYの質問コーナーでも、ビジネスマンの方から環境を変えて新しいことをチャレンジしようとする過程で、不安で進めないという声も少なくありません。やはり、そこは自分で決めるってところがポイントなのでしょうか?

自分で決めるって言うのがポイントだし、あと時間ってそんなにないよってことですよね。限られた時間しかないと思うんで。チャレンジできるタイミングってそんなにないし。それだったら、もう失敗してもいいから、とにかくやってみればと思いますけどね。僕自身は不安や恐れは全くないです。そこで考えてもしょうがないと思ってるんで。

Q:どのような思考を重ねていけば、不安や恐怖を感じないようになれると思いますか?

いろんな経験をさせてもらったっていうのは、前提に置いておきながらも、今の世の中もそうだと思うんですけど、結構言葉がひとり歩きしてることって多くあると思っていて。例えば「緊張」とか「プレッシャー」っていう言葉があるわけじゃないですか。例えば、野球で勝負所でホームラン打って逆転しました。「アイツ、メンタル強え」とか言うじゃないですか。幼少期はずっとそのマインドでした。一流アスリート、一流って言われてる人たちは強靭な心を持っていて、自分たちとはかけ離れた人だろうなっていうイメージでいたんです。なので、僕は緊張するものだと思っていたんです。大舞台になればなるほど。大学の時、国立競技場で初めてプレーさせてもらいましたけど、国立のピッチに立ったら緊張するもの。その緊張の中で、結果を残せる人たちがすごい化け物みたいな感じのマインドだったんですよね。

Q:そこからどのように変化していったのですか?

それを言語化できたのは、2015年のワールドカップに向けての、4年間ですね。緊張だとか、プレッシャーだとかっていうものは、そもそも触れられないものじゃないですか。ということは、この世に存在してないはずなんですよ。その存在してないものを、いかにも存在してるというマインドがおかしいと言うか。なので、緊張とかっていうのは本当は存在しないんです。言葉だけしか認識してないから、言葉に遊ばれている。自分が振り回されている。でも、この世に存在しないんです。では、何で緊張したり、プレッシャーを感じているかといえば、それはおそらく準備不足なんですよ。自分に落ち度があるから、不安になったりだとかするんじゃないかなと。だから、キックを蹴るときなんか一切何もなかったです、本当に。だから、繰り返しになりますが、「その感情にコントロールされるよりも、もっとコントロールできるとこあるでしょう」っていう持論 です。

Q:五郎丸さんが大切にしている言葉はありますか?

自分自身がラグビーを通じて大事にしてる言葉は、「日々の努力、夢への近道」っていう言葉です。ラグビーに魔法はなくて、本当に1日ずつ積み上げてきたからこそ、勝てる組織ができたり、勝てる個人ができたりとかするわけなので。小さい時もそうだったんですけど、「アイツは天才だ」という言葉って結構聞くじゃないですか。自分も「あぁ天才って存在するのかな」と思っていたんですけど、やっぱり天才と言われてる人たちもめちゃくちゃ努力してるのを、それこそ代表なんか行くとみんなトップレベルでいるけど、みんな努力するし、世界のスターたちがめちゃくちゃ努力してるのをフランスでも見てたんで。やっぱり1日ずつ積み上げていくしか、夢の本当に近道ってないんだなっていうのがあって、これはもう自分がラグビーをしてきて、自分なりに出てきた言葉だろうなと思って、いまだに大事にしてますね。

Q:最後まで努力できた人が、上にいけるということですね。

その通りだと思います。最初からできる人間なんていないし、大体失敗してやめるんですけど、でもそれでもやめずに乗り切って、もっと良くしよう良くしようって努力し続けてきた人間が最終的には生き残ってきたんじゃないかなと思います。日本代表もそうですから。誰しも辞めたくなるときってくるじゃないですか。「なんで俺、こんな頑張ってるんだろうな」とか。継続できる人も、そういうマインドにおそらくなってるんだけど、自分でケツを叩いて、ずっと続けてるんだろうなって思いますね。

Q:貴重なお話を本当にありがとうございました。ポジティブな考え方が、強く、楽しく前に進み続ける原動力なんだと実感しました。

もったいないじゃないですか。同じ時間を過ごすのに、起きてることはおそらく一緒なんですよ。でも、気持ちの持ちようで全然楽しい人生か、楽しくない人生かになると思うんです。「じゃあどっち選びますか」って言われたら、楽しい方を選ぶじゃないですか。そうなると、マインドを変えれば結構楽しいなと思いますね。
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PROFILE

五郎丸 歩 (ごろうまる あゆむ)
静岡ブルーレヴズ クラブ・リレーションズ・オフィサー
1986年3月1日生まれ。福岡県福岡市出身 
元ヤマハ発動機ジュビロのプロラグビープレーヤー、2021年度シーズンで現役を引退。
佐賀工業、早稲田大学を経て、2008年にヤマハ発動機ジュビロに入団、
ジャパンラグビートップリーグ13シーズンにおいて、得点王3回、ベストキッカー3回、ベスト15を5回受賞、ラグビートップリーグ通算最多得点(1282点)記録保持者。
2015年 第52回日本選手権大会においては、創部初の優勝に貢献した。
2005年、学生時代に日本代表に初選出、ラグビーワールドカップ2015イングランド大会に出場し、強豪南アフリカから歴史的勝利をあげると共に、大会ベスト15にも選出された。
日本代表キャップは57。

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