Photo by Kondo Atsushi

「ビジネスのこだわりは、好きなことしかやらないこと、自分だけが勝たないこと」

たむらけんじ #2

今回のアチーバーは、人気お笑い芸人で、「炭火焼肉たむら」を運営する株式会社田村道場代表取締役でもある、たむらけんじさんです。50歳となる今年5月にすべてのレギュラー番組を卒業し、アメリカへ活動拠点を移すことを発表しているたむらさん。19歳でお笑いの世界に飛び込み30年。多くのレギュラーを抱える人気芸人でありながら、「副業」と語るビジネスでも成功を収めるなど、唯一無二の存在感を放ってきました。人生は一度。他者からの評価を気にせず、挑み続けるために必要な考え方、たむらけんじさんにとっての「お金」とは―。今回は全3回連載の1回目。歩みを止めない男が、飾り気のない「WORD」で自らの生き方を語ります。

Q:今回は芸人たむらけんじさんのもう一つの顔でもある「ビジネス」の話を中心に聞いていきたいと思います。焼き肉店の経営や、仮想通貨への投資でも話題となりました。芸人をやりながら、どのような考えでビジネスと向き合ってきたのですか?

よく、「いろんなビジネスしててすごいね」「経営者やね」とか言われるんですけど、僕正直、経営者としては全然ダメやと思ってます。数字も見れてないし、現場に入ってやることもない。本当に自分の好きな事、好きな店、こんな感じの店がやれたらいいなとかっていうアバウトな感じで、そこでボロ儲けするんじゃなくて、みんなそこに集まってきた従業員の子たちの生活が保てたらとか、お金は皆に分配しようよとか、それぐらいなんですよね。ホンマの経営者って違うじゃないですか。そこも守りながら、会社も大きくしていくっていう。そこが僕はやっぱり、どこまで行ってもやっぱり「副業」やったんですよね。だから、こうやって「ビジネスマンですね」とかって言われてね、めっちゃこっぱずかしいんですよ。「いえいえ、僕何もしてませんねん」っていう。たまたま運が良かっただけですね。

Q:直接的でなくても、運を引き寄せるために意識していることや、結果的に運を引き寄せているのではないかと思うことはありますか?

好きなことはまずめっちゃ勉強しますね。仮想通貨、クリプトなんて、わけわかんないじゃないですか。けど勉強して、「これはすごいことになるんじゃないか」っていうのを自分でわかって、知れば知るほど好きになるんですよ。「おもろー」っていう、言ったら反体制ですよね。反体制ってめっちゃ面白いじゃないですか。なんかワクワクする。それが世の中を変えるかもしれんって思った時に、もう好きになるんですよね。だから、とことんまでは言い過ぎかもしれないですけど、好きなことは本当に追求します。ほんで、なんかこれが商売になる、ビジネスになるって言うんであればやるし、それはあるかもしれないですね。

Q:ビジネスで新しい挑戦をする時に、「やる」か「やらないか」の判断基準みたいなものはあるのですか?

好きなことしかしないです。それしかないですね。いくら「これ儲かるで」って言われても、それが嫌いやったらもう絶対やらないです。続かないですもん。だから好きなことだけ。車屋さんも、車も僕やっぱ好きやし、もちろん飲食っていうのは本当もう食べること大好きなんで。この世の中で一番簡単に幸せになれる方法ですから、美味しいもん食べるっていうのが。なので、好きなこと。決め手はこれだけです。

Q:お笑いの世界でのし上がった経験がビジネスにいきたことや、共通点を感じることはありますか?

大切にする部分ってお笑いもビジネスも全部一緒やと僕は思っているんでね。自分だけが勝たない」こととか。お笑いのときも、1人だけガーッていくやつって僕は残らないと思うんですよね。まず僕らはネタがあるじゃないですか。ネタをやった後に、今度、平場(ひらば)が出てくるんですよ。ここで勝たないと上に行けないんです。この平場って、共同作業じゃないですけど、1人だけがワーッて行っても周りが無視してツッコまへんかったら、浮いちゃうんですよね。じゃあ、アイツを助けてあげようって思われるようなことを考えながら、自分だけ勝たんようにっていうことを、僕は思ってたんで。みんなが面白くなりたいじゃないけど、ビジネスもそうじゃないですか。僕だけが儲かるんじゃなくて、それを助けてくれた人たち、みんながしっかりと儲かるように、よく言うWIN―WIN。WIN―WIN―WINって僕は言ってるんですけど、これって誰にも通じることじゃないかと思うんです。だから、例えば感謝するっていうことも、お笑いもビジネスも一緒やし、私生活も一緒やし。だからね、あんまり特別ビジネスだからこういうことを思ってやってますっていうのはないんですよね。

Q:事業の成功も、そうした考えの延長にあったと?

そうですね。1人では何もできないから、まずは仲間を見つけるんです。「こういうことを思ってる」って事をちゃんと説明して、僕がまずしんどいことを全部します。そうしないと誰もついてきてくれないので、そこは一番大事にしてるかな。まず、しんどいことを僕がする。それを見てくれたら、その子がまたしんどいことやってくれるっていう部分もあるので。それとプラス、知り合いですね。僕がやりたいことを見つけた時に、力を貸してくれそうな人にもう手当たり次第に行きます。これは助けてくれる人ですね。そうやってずっとやってきましたね。

Q:まず自分が動き、人を巻き込んで、しっかりと頼る。その流れを作り出すのが「たむら流」なのですね。

一番最初に焼肉屋やる時にね、準フランチャイズみたいなお店やったんですよ。僕の元奥さんのお母さんがやっていた店で。そしたら、その準フランチャイズの会社が「やらせろ」と。「俺らにも全部タダでよこせ」みたに言われて。何か腹立ってきて、「何でこんな言われなあかんねん」「もういいです、僕やるんで」って言ったら、「あなた、素人ですよね?」みたいなね。「できます、大丈夫です、2週間で開けます」って言って。そしたら、タレとか、肉の業者全部ストップされて、「うわ、やっべー」と思いましたけど、そこからですよね。知り合いのところにバーッて電話して「肉の業者知らんか」って言って、「肉の業者がいる、ここ話聞いてくれる」って。それですぐに行ったら、そこの社長さんが「わかりました。わざわざこうやって来てくれると思ってなかったから」って言って、「卸させてもらいます」って。そこで決まったりってことがありましたね。

Q:自ら動くことで、困難を乗り越えた経験があったのですね。

タレも同じです。タレが一番困ったんですよ。2週間で自分とこのオリジナルのタレ作ることなんて不可能なんですよ。「じゃあ、どうすんねん」ってなったときにパッと思い出して、韓国料理の社長がいたんですよ。そこの社長にもひさびさだったけどすぐ電話して、「こうこうこうで、タレが欲しい」って。「ほな、今から来い」って呼ばれたスナックで説明して、「2週間で絶対開けたい」って言ったら、「わかった」ってね。「うちのタレ使え」「チヂミあんのか?」「チヂミない」「使え!」って。「冷麺もあったよね?」って「冷麺?使え」って、全部使わせてくれたんですよ。あの人がおれへんかったら、もしかしたら終わってたかもしれないです。タレなし、タレなし焼肉。最悪ですよね。ホンマに。けど、あの時はホンマ動きましたね。2週間で開けるって決めたんで。看板とか内装とかも、そうですね。

Q:たむらさんのビジネスへの向き合い方が凝縮された話だと感じました。「2週間」っていう期限は自分で設定されたんですか?

僕の中で、もう2週間で決める、絶対開けるって決めたんです。だらだらしたくないんです、僕。だらだらしてるやつで、成功してるやつおらへんでしょ、ホンマに。芸人でも辞めて、スパンッて切り替えてるやつ、次の世界で絶対成功してますもん。けど、今やったら自分でも発信できたりしますやん。「いやいや、もうあなたはもう芸人さんじゃないのに、何こんな芸人さんみたいなことしてんの」っていう人は、やっぱりグズグズしてますし、次の世界でうまくいってないですから。

Q:そうした細かなステップを決めて、前進していくというのは芸人時代からやっていたことなのですか?

そうですね。大体1、3、5、7、10年ぐらいでわかってくるんですよ。僕も7年でコンビを解散してるし。やっぱり1、3、5、そうですね、この辺が大事やなと思ってたんで。7を超えたら、10はもう余裕、多分行けるやろなと思ってたんで。1、3、5。特にこの1年目は自分の中で、こういう風になってなかったらって。あの時はね、なんやったかな、ロケのレギュラー番組取れてなかったら辞めるかなんかにしてたと思うんですよね。自分の中で期限を決めて、そうじゃなかったら辞めるっていう風には、ずっとしてきましたね。

Q:いろいろな考え方において、お笑いの経験が、経営という立場でも生かせているのですね。

そうですね。だらだらできひんし、だから「あかん」と思ったら、僕すぐ店閉めますしね。 そこはもう多分、もうたむらけんじって人間やから多分変わらないと思うんですよ、何したって、同じやと思います。

Q:ビジネスに関する最後の質問ですが、たむらさんにとって「お金」とはどういった存在でしょうか?

僕ね、ホンマに「もっと僕に金与えてくれ」ってずっと思ってるんですよ。ほんなら、もっと幸せになれる人をたくさん作れると思ってるんですよ。それは僕の仲間であったり、会社の人間やったりも含めて、自分だけが儲かろうってホンマに思ってないんですよね、本当に。だから、僕にお金をもっともっとくれたら、いっぱい幸せにできる人が増えるよって思ってるんで、だからこそ、稼ぎたいですね。

たむらけんじさんの「THE WORDWAY」。次回♯3は、たむらけんじさんが「自分だけの武器」の作り方について語ります。アメリカ進出を前にした49歳の「言葉」に、客観的な自己分析力を磨くヒントがあります。

この記事をシェアする
THE WORDWAYでは、読者から、アチーバーの記事を読んだ感想を募集しています。記事を読んだ感想、「昨日の自分を超える」トリガーになったこと、アチーバーの方々に届けたい思いなど、お送りください。いただいたメッセージは、編集部から、アチーバーご本人に届けさせていただきます! アチーバーに声を届ける

PROFILE

◆たむらけんじ 1973年5月4日、大阪府阪南市生まれ。高校卒業後に吉本興業に入る。高校の同級生コンビ「LaLaLa」でデビューしたが、99年に解散。その後はピン芸人として活動し、裸にふんどし、獅子舞姿で「ちゃ~」などのギャグを披露するピン芸人として活躍。「炭火焼肉たむら」などを経営する実業家でもある。愛称はたむけん。2021年に23年5月4日での「芸人引退」を示唆したが、22年12月に自身のYoutubeで撤回。50歳の誕生日で国内での活動を終え、アメリカ進出する。

HOW TO

THE WORDWAYは、アチーバーの声を、文字と音声で届ける新しいスタイルのマガジンです。インタビュー記事の中にある「(スピーカーマーク)」をクリック/タップすることで、アチーバーが自身の声で紡いだ言葉を聞くことができます。

RECOMMEND

あわせて読みたい

THE WORDWAY ACHIEVERS

隔週月曜日に順次公開していきます