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Photo by Kondo Atsushi
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「人生という時間軸で見れば、失敗は単なるスパイスでしかない」
鈴木 啓太 #1
今回のアチーバーは、サッカー元日本代表の鈴木啓太さんです。現役時代は、広い視野とリーダーシップを武器に日本代表としても活躍。J1浦和レッズのリーグ優勝、主将としてACLチャンピオンズリーグ優勝にも貢献されました。ファンを驚かせたのは、2015年。引退を機に腸内フローラに関するコンディショニングサポート事業を展開する『AuB(オーブ)株式会社』を設立し、起業家の道へ進まれました。大切にしているのは、「キャリア=人生」という考え方。ビジネスとサッカーで培った未来の切り開き方、挑戦を前にした「恐怖心」との向き合い方を、鈴木さんの「WORD」でお届けします。今回は全3回連載の初回です。
Q:現役引退を前に、「AuB(オーブ)」という新たな挑戦をスタートされました。「うんちの研究」というワードも話題になりましたが、7年たった現在の状況を教えてください。
世の中で、腸活というような言葉が少しずつ浸透してると思うんですけど、私が始めた頃は、まだそこまで浸透してなかったんです。「アスリートの腸内細菌を研究し、一般の方々の健康に貢献する」という目的のため、多くのアスリートの方々にも協力してもらい、少しずつ広がってきたのかなと。少しずつデータが溜まり、研究成果が出て、ようやく皆さんに商品として届くような形や、一般の方向けのメソッドの開発なども出来るようになりました。自分たちも成長したなと思いますし、腸内細菌の市場、ヘルスケア市場が、これからもっと広がっていくんじゃないかという手応えを感じています。Q:日本を代表するトップ選手が、引退後のキャリアに「起業」という道を選択したのは、ファンも驚きました。あらためて、どのような経緯と思いがあったのですか?
起業は、意図してやったことじゃないんですよ。トレーナーと食事をしていたら、「うんちの記録アプリ作ってる人がいる」って聞いて、単純に「面白そう! 会いに行って、話聞かせて!」って。それで、実際に会いに行ったら、「特徴的な被験者で調べることが大きな発見に繋がるんです」ってその人が言ったので、「アスリートですよ!」って。その瞬間に、自分の中で全部が繋がったので、「会社作りましょう」って。その1週間後に会社を作りました。Q:準備を重ねての決断でなかったことにも驚きです。
よく、「いろいろ考えてますね」って言われたりするんですけど、僕、考えてないんです。直感や、その場で出会ったものに対して、やってみてそこから考えをまとめていくっていうタイプなんで。アスリートの腸内細菌を調べるということ自体ができていない。そして、それをやっている人がいなかった。だったら自分でやるしかないなって。格好よく言えば使命なんですけど、「それがなかったから」ってだけなんですよね。同じような会社があれば僕がやる理由はない。あの瞬間にそのように思わなければ、引退後、もしかしたら空白の時間があったかもしれないですが、自分の前にこの事業が現れてしまったという感じですね。Q:幼い頃から生活の中心にサッカーがあって、選手としても素晴らしい実績を残されました。ビジネスマンでいう「転職」などもそうですが、新たな道には勇気も必要です。安定を捨てる不安感や、サッカー界への未練などはなかったのですか?
僕は、キャリアは人生そのものだと思ってるんです。だから、サッカーをやっていたからとか、過去にこういうことやっていたから、その道に進まなきゃいけないっていうことではなくて、大事なのは「自分の人生をどうしたいのか」だけだと思うんです。「こういう世界を作りたい」「こうなったらもっと幸せなんじゃないか」ということに対して、自分がアスリートだったからこそ感じることもあると思いますし、僕の中では全部が一本の道がつながってるんです。Q:新しいキャリアではなく、キャリアの延長に次のキャリアが続いていく感覚ですか?
サッカー選手からベンチャー経営って言われると、全く違うことのように思われますが、人生という一本の道が続いてますし、先のビジョンは、今やってることや、過去にやってきたことに繋がっていくので。未来をどう想像するかだったり、どう作っていくのかが大事なんじゃないかなと思っています。Q:鈴木さんは、「自分の人生をどうしたいか」という問いの答えを、サッカーの中ではなく、起業という道に感じたということですか?
動機が自分の中で整理されていたということですね。単純に、ビジネスマンになりたいとか、起業したいっていうことではなくて、「どうすれば大切な人たちを幸せにできるんだろう」と考えてるから、そこに出会うというか。「腸内細菌」「アスリート」―。それを変換するだけなんですよ。これまでエンターテイメントの価値だけだったアスリートが、違った形でみんなを喜ばせることができるんじゃないのかと。そういう思考がある中で、アスリートの存在が、腸内細菌で人の健康を大きく変えられるかもしれないと知った。じゃあ、やるしかないなと。自分で勝手に運命だと決めつけてるんですけど、そのぐらいでいいんじゃないかなと思っています。Q:大きな決断だったと思いますが、そういった状況で大切にしている考え方や、信念のようなものはあるのですか?
「最終的に自分自身ができないことをできるようにしたい」ということですね。それが、成長するっていうことだと思いますし、できないことができるようになるって単純に嬉しいじゃないですか。だからサッカー選手にもなったし、今こうやって経営もしている。みんな自転車に乗れなかったし、歩けなかったじゃないですか。できないことができるようになれば、そこから先に何かがあるんですよ。自転車に乗れれば遠くに行けるようになる。できないことができるようになった先に何があるのかを想像することが、僕は重要だと思うんです。Q:自分の可能性を信じたり、壁を乗り越えていくこと自体を楽しめるのは、サッカー時代のどのような経験があったからなのでしょうか?きっかけのような出来事があれば教えてください。
現役時代は、できないことはやらなくてもいいって思ってた自分もいるんです。ただ、現役の最後に一緒に仕事をした監督(ミハイロ・ペドロビッチ氏)に「お前は今から一番上手くなる」って言われたんです。その時30歳を過ぎていて、体力的には少し落ちると言われている年齢だったんですが、「ここからお前は一番上手くなる」「技術的にも上手くなる」って。自分が得意ではないと諦めてたプレーがあったんですが、一緒にトレーニングをして、考え方を変えただけで見える世界が全く変わったんですよ。Q:監督のその一言で劇的に景色が変わったと?
それまでは、半分仕事的に、プロだから「やらなければいけない」って思っていたのが、毎朝起きたら「練習場に行きたい」に変わったんです。少しずつチャレンジすることによって、できなかったことができるようになる感覚が、子供の頃にサッカーを始めて、好きになっていったのと似てたんですね。いつからか、大人になって物事がわかり始めて、自分がチャレンジすることが難しいとか、怒られたり、チャレンジすることすら否定されたりすると、自分の枠って狭くなっていくじゃないですか。それが全部、「大丈夫、お前はうまくなる」っていうあの一言で、サッカーってこうだったな、こんなに楽しいんだって思えるようになったんです。Q:考え方が変化したことで、行動も変化していったということですね。
あの言葉があって、何でもできるんだって思ったんです。もちろん失敗することもあると思います。失敗する事って、短期的に見たら怖いんですよ。でも、長期的に見た時には、あの失敗があったからってみんな言うじゃないですか。「あの失敗があったから僕は成長できた」って。だから、失敗は点で見たら失敗なんですけど、人生という時間軸で見れば、単なるスパイスでしかないんですよね。僕自身も、サッカー人生での思い出を聞かれたら、優勝したシーンじゃなくて、失敗したり、降格する残留争いしたり、苦しい時なんです。そういう経験があって、それを乗り越えたから今がある。今、その経験を「イエス」って言えるのは、過去の自分も受け入れているからだと思うんです。よく過去は変えられないと言いますが、過去は変えられると僕は思ってるんです。要するに捉え方で変わるんです。Q:失敗を受け入れて成長につなげてきた経験が、現在の「できないことをできるようにする」という価値観につながったのですね。
みんな、失敗によって成長することを知っているはずなのに、未来に起こるかもしれないことへの恐怖があるんです。できないことはないんだって思って突き進んでも、知識が入ってくると、「いや、これ難しいかな」って、まただんだんそうなってくるんです。いろんな知識を入れたり、物事を理解し始めて、蓋をするというか。みんな子供には「何でもできる」って言うじゃないですか。僕自身も、サッカー選手になって、いろんなことを経験し始めると、だんだん視野が狭くなっていきました。ただ、その時の監督の言葉で、できないことはないんだって、実体験で感じたんですよ。僕はサッカーを通して大切な物が何かも気づきましたし、それが今の自分にとってはものすごい武器だなと思っています。チャレンジしてる時って楽しいじゃないですか。チャレンジしない人生は、僕はもう生きられないなと思っています。鈴木さんの「THE WORDWAY」。次回♯2は、鈴木さんが人生の目標や夢の見つけ方について語ります。鈴木さんが自分自身との対話を通して見つけた、サッカーをする理由とは何なのか。ビジネスに通じる、目標設定のヒント、目的と手段を明確にする「言葉」があります。
THE WORDWAYでは、読者から、アチーバーの記事を読んだ感想を募集しています。記事を読んだ感想、「昨日の自分を超える」トリガーになったこと、アチーバーの方々に届けたい思いなど、お送りください。いただいたメッセージは、編集部から、アチーバーご本人に届けさせていただきます! アチーバーに声を届けるPROFILE
- 鈴木 啓太(すずき・けいた)1981年7月8日静岡市生まれ。東海大翔洋高校卒業後にJリーグの浦和レッズに入団すると、06年にJ1優勝、07年にはAFCチャンピオンズリーグ優勝に貢献し、2年連続でJリーグベストイレブンを受賞。06年には日本代表に初選出され、28キャップ。15年に現役引退し、腸内フローラに関するコンディショニングサポート事業を展開している『AuB(オーブ)株式会社』の代表取締役を務める。
HOW TO
THE WORDWAYは、アチーバーの声を、文字と音声で届ける新しいスタイルのマガジンです。インタビュー記事の中にある「(スピーカーマーク)」をクリック/タップすることで、アチーバーが自身の声で紡いだ言葉を聞くことができます。 CATEGORY
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